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RFノイズの侵入を阻め!イミュニティを高める設計技法(3/5 ページ)

» 2008年05月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]

RFノイズが引き起こす症状

 次にRFイミュニティの向上を図る設計者が知るべきことは、RFノイズによってどのような症状が現れるかである。ここではその具体例を紹介する。

 例えば、読者が設計している機器において携帯電話機が使用するRF帯域に対するノイズ対策が施されていない場合、そのRFノイズが引き起こす問題は最悪の事態になるだろう。その理由の1つは携帯電話機は至る所で使用されていることである。また、RFノイズはケーブルやプリント基板のパターンなど機器の各所から侵入し得る。こうしたことから、対象となる機器のすぐ近くで携帯電話機が使用されたり、機器の上に携帯電話機が置かれていたりすると、そのRFノイズによってさまざまな問題が引き起こされるのだ。

・携帯電話機による種々の症状

 携帯電話機が原因となってRFノイズ対策に失敗した例はいくつもある。例えば、米Cisco Systems社の技術者であるBob Thomas氏は、2006年製ホンダ車のコンソールトレイに携帯電話機を置いていたところ、カーラジオからの音楽に雑音が重畳されて聞き取れないほどになったという。

 また、同社の技術者Steve Abe氏の場合、携帯電話機をPDA端末の「Palm Zire」の上に置いていたところ、携帯電話機に呼び出しが入るたびにPDAが再起動してしまうという状況に遭遇した。さらに、車載用FMトランスミッタメーカーである米Aerielle社の技術者Francis Lau氏は、「携帯電話機の呼び出しがあるたびにステレオオーディオプレーヤから低音のノイズが聞こえるという経験をしたことがある」と語った。

・RFノイズが雑音になる理由

図2 TDMA方式におけるRFノイズの放射パターン 図2 TDMA方式におけるRFノイズの放射パターン TDMA方式の携帯電話機では、50Hzの周波数でバースト信号(ノイズ)が放射される。このバースト信号の包絡線に相当する波形がステレオやラジオで復調され、雑音として聞こえる。 

 なぜ、携帯電話機がオーディオ帯域のノイズを引き起こすのかは、そのデータ転送プロトコルを調べることにより理解できる。NADC(North American digital cellular phone。北米向けの携帯電話機)ではTDMA(time division multiple access:時分割多重アクセス)方式が採用されている。このプロトコルでは、デジタル音声データの通信チャンネルを時間スロットに分割して多重化しており、6個の時間スロットにより40ms幅のフレームが構成される。通信チャンネルが休みなく使用される場合、各フレームで2スロット分が伝送されることになる。つまり、1つ目のスロットを使用したユーザーは、4つ目のスロットを再度使用することになる。従って、各フレームで2回の送信が行われるため、携帯電話機は周期が20msのRFノイズを発生するのである(図2)。

図3 GSM方式におけるRFノイズの放射パターン 図3 GSM方式におけるRFノイズの放射パターン GSM方式では217Hzの周波数でRFノイズを放出される。電力が大きいことと217Hzが人間の耳にとって聞きやすい周波数であることから、RFイミュニティ上の問題となりやすい。

 これに対して携帯電話の通信方式がGSM(global system for mobile communication)の場合、4.6msごとに電力が33dBmの電波が放射される(図3)。そのため、TDMA方式の20dBmの電波よりも干渉性が強い。図2と図3は実使用環境での干渉の例を示したものだが、TDMA方式の携帯電話機からの干渉が5mVであるのに対してGSM方式の携帯電話機からの干渉は100mVにも上る。

 車載オーディオ機器が携帯電話機から受けるRFノイズによる雑音は、900MHzなどの搬送波に直接起因するものではない。そうではなく、機器からの作用が加わってからノイズとして現われる。その仕組みは次のようなものになる。まず、その搬送波は、ICや配線材を介してシステムの非直線応答の作用を受ける。次に、それがさらに低周波の包絡線成分に変換される。その低周波成分がノイズとなるのだ。

 この症状に関して、RFコンサルタントであるJames Long氏は次のように指摘する。

 「電子部品は程度の差はあれ非線形性を有している。その伝達関数は入力信号の冪級数(べききゅうすう、power series)に展開できる。つまり、kn(n=1〜∞)を定数とし、VOUT=VIN×k1+VIN2×k2+VIN3×k3+…と表現できる。この伝達関数により、広い帯域の周波数成分を持つ不要な信号が生成されるのである。こうした非線形応答に起因するノイズのレベルは、歪(ひずみ)を低減するために用いられるフィードバック回路に依存する。高周波ではフィードバックが働かなくなることから、RFノイズを抑える効果が得られなくなるのだ*3)*4)*5)」。

 つまり、かみ砕いていうと、RFノイズがプリント基板における電源/信号パターンなどから侵入してアナログICに到達すると、ICの入力段が備える保護ダイオードなどの接合型部品によって復調され、その復調信号がオーディオ周波数帯域のノイズとして出力されるといったことが起こり得るということである。


脚注

※3…White, Don, The EMC Desk Reference Encyclopedia, ISBN 0-932263-49-6, Don White Consultants Inc, June 1996.

※4…Hare, Ed, and Michelle Bloom, Editors, The ARRL RFI Handbook; Practical Cures for Radio Frequency Interference: First Edition, ISBN-13: 978-0872596832, American Radio Relay League, February 1999.

※5…Gerke, Daryl, and Bill Kimmel, EDN Designers Guide to Electromagnetic Compatibility, ISBN-13: 978-0750676540, Newnes, August 1999.


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