電池モジュールでは、複数の電池セルを直列に接続することで高い電圧を得る。この構成においては、特にセルの数が増えると、コモンモード電圧の存在が原因となって個々のセル電圧を計測するのが困難になる。本稿では、この課題を解決する新たな計測手法について詳細に解説する。
自動車、航空機、船舶、無停電電源装置あるいは公衆通信装置などでは、多数のセルを直列に接続した電池モジュールが使用される。用途によっては、電池モジュールにより数百ボルトもの電圧が得られるよう多数のセルが接続されることもある。このような電池モジュールでは、稼働時の動作管理などを目的として、各セルの電圧を正確に計測できることが望ましい。しかし、各セルの電圧には電池モジュールからの高いコモンモード電圧が重畳されるため、それぞれの電圧を正確に計測するのは非常に困難である。
このことは以前から問題になっていたが、いまだに一般的な解決策は存在しない。これまでも、コモンモード電圧の影響を受けないセル電圧の計測方法がいくつか提案されてきたが、程度の差はあれ、実用上満足できるレベルには至っていない。これは一見簡単そうに思えるが、実は大変扱いが難しい問題なのだ。
本稿では、この課題の解決策を紹介するわけだが、まずは何が問題になっているのかを詳しく説明しよう。
図1に示すのは、単一セルの電池電圧の計測手法である。単一セルの場合、その一端はグラウンドに接続することができるので、計測は簡単である。電圧計側もグラウンドを基準レベルとすることになるので、その耐圧は計測の対象となる電池電圧に相当するレベルでよい。
一方、図2は複数のセルを直列接続した電池モジュールの個々のセル電圧を計測する方法を表している。各セルの電圧を個別に計測するには、電圧計への接続をスイッチによって切り替える必要がある。また、通常の電圧計は耐圧の低い部品で構成されているため、電圧計のグラウンド端子に入力するコモンモード電圧が問題となる。このコモンモード電圧は、自動車などで用いられる大型の電池モジュールでは数百ボルトにも達するからだ。このような高い電圧は、一般的な半導体部品の耐圧を超えている。特に、高精度の計測用途に使用される半導体部品に対しては過酷過ぎる条件だ。このことは、切り替えに用いるスイッチでも同様に問題になり、使用可能なスイッチの条件が大幅に制限されることになる。
こうした背景から、コモンモード電圧の影響を回避しつつ、各セルの電圧を正確に計測する手法が求められているのである。また、その計測手法には、セルからの電流出力が不要であることと、構成が簡単で低コストであることも要求される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.