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自動車開発を革新する先進プラスチック技術(3/4 ページ)

» 2008年09月01日 00時00分 公開
[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

プラスチック採用で60kgの軽量化

 SABIC IPは、米General Electric社が2007年9月にサウジアラビア基礎産業公社(SABIC社)にプラスチック事業部門を売却して誕生したSABIC Innovative Plastics社の日本法人である。

 同社は、PC「Lexan」、PPE「Noryl」、PBT「Valox」などエンプラを主力製品としている。グローバルでは、SABICグループの欧州法人SABIC Europe社がPPを取り扱っており、「グループ全体では自動車用プラスチックの54%をカバーできる。ただし、国内市場での取り組みはPCをはじめエンプラが中心になる」(丸山氏)という。

SABICIPの丸山剛氏 SABICIPの丸山剛氏 

 PCは、透明で硬いという特性を持つことから、ヘッドランプのハウジングやレンズ、車室内の光源関連部品などに利用されるようになって30年以上経過している。丸山氏は「自動車でのPC利用を拡大するには新しい取り組みが必要であり、樹脂ガラスは最も大きな案件になる」と話す。Lexanと子会社米Exatec社のコーティング技術の組み合わせにより、高い耐傷つき性や耐候性を有する樹脂ガラスが提供可能で、法規制上、代替が難しいフロントガラス以外に十分使用できるという。特にサンルーフ、バックドアなどの大型ガラス部品は、最大40%の軽量化が可能となる樹脂ガラスを採用する意義は大きい。サンルーフの場合は、一体成形により複数の曲面を持った部品を製造できることから、デザイン性を高めるために、欧州メーカーでの採用事例が多い。また、ABSとのアロイにより、メッキ性を高め、価格も低減できる製品も提供している。

図3 韓国Hyundai社のコンセプトカーQarmaQに採用された、SABICIPのプラスチック材料による軽量化の指標(提供:SABICIP) 図3 韓国Hyundai社のコンセプトカーQarmaQに採用された、SABICIPのプラスチック材料による軽量化の指標(提供:SABICIP) PC製の樹脂ガラスによりサイドドアのガラス部分をコの字型にするなど、デザイン面でも注目を集めた。

 耐衝撃性の高いPPEでは、PAとのアロイ「Noryl GTX」を開発し、外板部品の一つフェンダの材料としての採用事例が増えている。欧州メーカーだけでなく、三菱自動車のミニバン「デリカD:5」など国内メーカーの採用実績もある。外板にプラスチックを使用する場合、他の金属製外板と線膨張係数が異なるため、高温や直射日光でプラスチック部品が膨張して不具合を起こすという問題がある。この問題に対応するため、耐衝撃性と剛性を保ちながら線膨張係数を9から7に低減した新グレード「Noryl GTX 977」を開発した。

 2007年の東京モーターショーに出展した韓国Hyundai社の「QarmaQ」は、樹脂ガラスに加えて、歩行者安全規制に対応するエネルギー吸収材「Elastic Front」、ハロゲンフリーの電線被覆材「Flexible Noryl」、ウレタンガラスマットを代替する発泡Noryl、2008年中に実証開発を完了する予定のガラス繊維強化プラスチック「IXIS」などを採用して、合計60kgの軽量化を実現した(図3)。

2012年をCFRP普及元年に

 炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)や原油の残留分であるピッチを原料に数千℃で焼成して製造する繊維である。PAN系炭素繊維は、1959年に大阪工業試験所の進藤昭男博士が開発した国内発の技術であり、東レは、1960年から進藤氏と共同研究を開始し、炭素繊維の量産技術開発や、炭素繊維に樹脂を含浸させたCFRPなどを積極的に展開してきた。炭素繊維の生産量では、世界シェア34%(2006年時点)とトップに位置する。また、プラスチックでは、高シェアを持つPPSや、PBT、PA、ABSなどを展開している。

 現時点での自動車産業における炭素繊維利用は、F1などのレーシングカーや、イタリアFerrari社に代表されるスーパーカーの構造部品としての用途が中心となっている。レーシングカーで250トン、スーパーカーで400トンが2007年に使用されたという。須賀氏は「F1カーでは1台当たり200 kgの炭素繊維を使用する。ドイツDaimler社のスーパーカー『Mercedes Benz SLR』は、クラッシャブルゾーン以外、モノコックや外板、シートシェルまでCFRPを使用している」と実例を挙げる。また、量産部品としては、鉄製に比べて重量が半分のCFRP製プロペラシャフトが、1999年の三菱自動車「パジェロ」向けから始まって間もなく累計出荷100万本を達成する見込みだ。

図4 CFRPのハイサイクル成形技術(提供:東レ) 図4 CFRPのハイサイクル成形技術(提供:東レ) CFRPの最大の課題は、価格と部品製造の時間と言われている。東レが開発したハイサイクル成形技術はプロセス時間を10分以下に短縮できる。

 「しかし、自動車部品の材料として採用を拡大するには、コスト削減とともに、長時間を要する成形プロセスを改善する必要がある」と須賀氏は指摘する。そこで、新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)委託の国家プロジェクトの一環として「ハイサイクル一体成形技術」を開発した。同技術により、3次元構造を持ったCFRP部品の成形が、従来の160分から10分以下に短縮できるようになった(図4)。「この成形速度であれば、年産3万台規模の自動車生産台数であれば十分利用できる。次の目標は、自動車メーカーが求める2分という成形サイクルだ」(須賀氏)という。

東レの須賀康雄氏 東レの須賀康雄氏 

 東レは、2008年6月に名古屋事業場内に自動車用先端材料の研究開発拠点「オートモーティブセンター」を開設した(顧客向け公開は10月1日から)。さらに、2009年4月に向けて炭素繊維とCFRP関連の研究開発機能を集約した「アドバンスドコンポジットセンター」も名古屋事業場に新設する。オートモーティブセンターの所長も兼任する須賀氏は「2012年を自動車へのCFRP普及元年にしたい。そのためにも、オートモーティブセンターを活用した提案活動は重要になってくる」と語る。

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