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“改善”がもたらした不具合Tales from the Cube

» 2008年10月01日 00時00分 公開
[Stephen Tomporowski(米Kaman Measuring Systems社),EDN]

 2002年の秋、筆者は自身が勤める会社のある技術部門で新しい仕事を始めた。その職場は、35年間も出荷を続けているいくつかの製品を抱えていた。そうした製品群のうち、主力の製品である渦電流の計測システムを担当する主任技術者として業務に携わることになったのだ。

 その製品にはさまざまなモジュール部品(ハイブリッド部品)が使用されていた。それらの部品を供給する外注業者からは、発注量が少ないことや品質に対する要求が厳しいことから、その部門は歓迎されていないようだった。そこで外注先を変更することにした。実際、当社からの発注数量は少なく、新たな外注先でも十分に在庫を確保できる見込みだった。

 ところが、ここで驚くべき事態が発生した。その計測システム製品を、宇宙用途の機器で利用したいとの要望が大手メーカーから舞い込んだのである。この製品を巡るビジネスとしては大きな話だったので、そのプロジェクトには全力が注がれることになった。また、新しい外注先が、必要となる技術をすべて有していたこともあり、その外注先に設計の改善も依頼した。

 この渦電流の計測システムは、発振器とAGC(Automatic Gain Control)回路を組み合わせたモジュール部品を備え、それによってセンサーで用いる安定した信号を生成する仕組みだった。その安定化には、水晶発振器の制御用と振幅の制御用の2重のフィードバックループを使用していた。このモジュール部品の設計を改善してもらっているさなか、筆者は外注先の技術者から、設計変更後のモジュール部品において発振器が異常動作し、正弦波状の正しい出力が得られないとの報告を受けた。その技術者は、「どのような動作になっているのか」と尋ねても、説明できないほどに混乱していた。

 次の週になって、新旧モジュール部品の回路図面を持って外注先に出向いた。外注先では、先方の技術者から発振器の出力信号をオシロスコープで観測した結果が示された。確かに、その波形はどう表現すればよいのかわからない状態だった。周期的なスパイクや歪(ひずみ)、あるいは波形のジャンプなどが見られたのである。

 早々に回路図を見直すとともに、実機での動作を確認することにした。その際、部品の1つである差動アンプの出力をモニターしたところ、その波形の振幅は発振器の出力から生成される本来のレベルよりも大きく、しかも全体的に+側にシフトしていることがわかった。このことが1つの手掛かりとなり、振幅の制御を担うフィードバック系の信号をモニターしたところ、信号の−側しか整流されておらず、それがフィードバック系の誤差アンプの入力になっていることがわかった。信号のレベルがシフトしているため、正常な補償信号が生成されず、差動アンプの一方の入力端子があたかもオープンであるかのような動作になっていたのである。これで、ループ内のどこかに不良個所があるとの確信を得た。

 そこでさらによく調べてみた結果、差動アンプの出力部に従来は存在しなかった回路が付加されていることに気付いた。それは、バイアス電圧が印加されたツェナーダイオードにダイオードが接続されたものだった。AGC回路の立ち上がり時にはフィルタの時定数による影響で、非常に大きな誤差信号が入力されることになる。2個のダイオードは、AGCが正常動作に入るまでの間、この信号が過大にならないよう対策するつもりで追加されたもののようだった。

 これら2つのダイオードを取り除いたところ、正弦波状の正常な出力が確認できた。かくして、このモジュール部品は宇宙に飛び立った。この一件で学んだのは、「改善という言葉には注意しなければならない。その効果が確認できるまでは、実際には“改悪”を引き起こすものであるかもしれない」ということだった。

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