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「3Gワイヤレス」最新事情米国、そして世界での普及を阻むものは何なのか?(1/2 ページ)

長い間待ち望まれていた3Gワイヤレスの機能のうちいくつかが、米国内でも利用できるようになってきた。しかし、3Gの本格的な普及までにはまだ時間がかかりそうだ。本稿では、米国で3Gを普及させるために課題となっていることを整理するとともに、各社が行っている取り組みについてまとめる。

» 2009年03月01日 00時00分 公開
[Ann R Thryft,EDN]

米国の通信事情

 日本で3G(第3世代)携帯電話通信の運用が開始されたのは2001年のこと。その後、着々と普及が進み、現在では消費者にも当たり前のものとして受け入れられている。それに対し、米国で3Gワイヤレスが最初に登場したのは2002年であり、普及に向けた本格的な活動が始まったのはさらにその2〜3年後だ。日本にはかなり遅れたが、2008年7月に米Apple社が発表した「iPhone 3G」により、ついに米国でも3Gワイヤレスに対する消費者の期待が高まり始めた。米Google社らの主導によりオープンソースライセンスで提供されている「Android」など、競合するいくつかの3G携帯電話機向けソフトウエアプラットフォームの登場により、この期待はさらに高まることが予想される(別掲記事『3G対応の携帯機器』を参照)。

 しかし、世界中の30億人もの携帯電話機ユーザーが、3G対応機を使ってソーシャルネットワーキングサービスや動画サイトへのアクセスを試みたとしよう。その場合、現在のネットワークインフラによって、それらのダウンロード/アップロードのトラフィックに対応することができるだろうか。おそらく、その半分にさえも対応することはできないだろう。

 また、4G(第4世代)携帯電話の実用化に向けて、通信ネットワークにおける遅延などの問題は改善されると仮定しよう。そうだとしても、後述するバックホールネットワーク、ヘッドエンド(ネットワークを制御する中枢システム)、コアネットワーク(基幹回線)に関する問題も解決することが可能なのだろうか。

 そして、何より重要なのが米国内の3Gネットワークの整備状況である。これは、十分整備が進んでいると言えるのだろうか。それともやっと敷設が始まったばかりと考えるべきなのか。これについては、地域、機能集合をどのように定義するか、ネットワークインフラ、データサービス、携帯電話機のうち何を対象とするのかによって答えは異なる。

 また、3Gと4Gのネットワーク技術とサービスに関する定義や、両者の境界線もこの数年間で常に変化し続けてきた。その理由の1つは、3Gネットワークの敷設、携帯機器の開発、データサービスが同調していなかったことにある。もともと3Gという言葉は、テキスト送信、電子メール、インスタントメッセージング(IM)に加えて、インターネットへのブロードバンド接続を介した完全なウェブ閲覧や、データのダウンロード/アップロード、さらにはテレビ電話を含むデータサービスを意味するものであった。しかし、現在の3Gネットワークでは、10メガビット/秒以上の動画ストリーミングをサポートできるほど高速な通信速度を維持することはできない。

 その一方で、Wi-FiやBluetoothなど短距離の無線通信プロトコルも含めると、エアインターフェース(無線通信規格)の種類は激増していると言える。4G対応の携帯機器が達成すべき機能についての一般的な見解は、「複数の基地局からの複数のエアインターフェースに対応するとともに、リアルタイムに切り替わる複数種類のデータやサービスを処理している間に、複数の基地局とのネゴシエーションをほぼ同時に行うことができる」というものだ。ちなみに、以前は3Gワイヤレスでこれらの機能が実現されると考えられていた。

世界規模で見た3Gの普及度合い

図1 世界全体の携帯電話方式別契約件数 図1 世界全体の携帯電話方式別契約件数 2012年までの携帯電話の契約は、GSM、2G、2.5GGPRSがそのほとんどを占めると見られる(提供:In-Stat社)。

 ITU(International Telecommunications Union:国際電気通信連合)は、IMT-2000規格において3G携帯電話通信を定義し、次の5つのエアインターフェースがその定義に準拠すると規定した。すなわち、W-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)、CDMA2000、TD-CDMA/TD-SCDMA(Time Division CDMA/Time Division Synchronous CDMA)、EDGE(Enhanced Data Rates for Global Evolution)、DECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)である。さらに、ITUは2007年に、モバイルWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)を6つ目のエアインターフェースとして追加した。

 米In-Stat社で無線技術およびインフラストラクチャ担当の主席アナリストを務めるAllen Nogee氏は、「現在では米国内の主要な通信事業者が3Gネットワークを保有している」と語る。一方で、同社シニアアナリストのGemma Tedesco氏は、「世界全体で見た場合、2012年までは、GSM(Global System for Mobile Communications)、2G、2.5G GPRS(General Packet Radio Service)の契約が大部分を占めるだろう」と主張する(図1*1)。「CDMA2000でさえも、データではなくテキストや音声のみの通信にネットワークが利用されている」と同氏は語る。西欧ではHSPA(High Speed Packet Access)が普及しつつあるところだが、それでも2013年の時点ではGPRSやEDGEのほうが利用率が高いと予測されている。

 世界規模では、ほとんどの通信事業者がまだ3Gネットワークを敷設していない。アジアや南米など、3Gネットワークが敷設されている地域でも、すべての携帯電話ユーザーが3G対応機器を所有しているわけではない。米国では、ほとんどの通信事業者が3Gネットワークを保有し、多くのユーザーが3G対応機器を所有するのにもかかわらず、3Gデータサービスには加入していない。「つまり、実質的には3Gワイヤレスが世界中に存在するわけではない」(Tedesco氏)のである。

 一方、In-Stat社の最新調査によると、2007年の間に世界中の通信事業者が数多くの新規3Gネットワークを導入したが、2008年の携帯電話基地局の総出荷数はかなり減少したという*2)。Nogee氏は、「引き続き新規の3Gネットワークが展開されるだろう。しかし、現在は世界的に経済環境が厳しい状況にあり、成長著しい開発途上地域においてもGSMの加入者ですら増加率の伸び悩みが始まっている。高速無線通信の利用は拡大傾向にあるものの、通信事業者が基地局数を継続的に増加させようと思うほどには加入者数は伸びていない」と説明する。

 多くの識者が、3Gワイヤレス普及のためには機敏さと柔軟性が重要だと強調する。携帯電話機/ノート型パソコンなどの通信機器が、アプリケーション、場所、利用可能なサービスやネットワークに基づいて、最も効果的な接続を得られるようにするためである。この話から連想されるイメージは、複数の高速無線通信の接続技術やサービスがパッチワークのようにつなぎ合わされた状態である。この状態は、バックホールネットワークにもある程度当てはまる。ここでいうバックホールとは、ユーザーと通信ネットワークを接続するネットワーク終端部と、基幹回線であるコアネットワークの間をつなぐ回線のことである。

3G対応の携帯機器

 携帯電話機の開発において、3G技術の進歩が著しい。3G通信事業者である米T-Mobile社は2008年10月、Androidをベースとする最初の3G携帯電話機「G1」をリリースした。同製品は、3G機能に加えて、iPhoneに似たタッチスクリーンとスライド式のキーボードを搭載し、GPSナビゲーションとWi-Fi通信によるインターネットアクセスをサポートする。Androidは、Google社らが率いるOHA(Open Handset Alliance)により提供されている、オープンソースでライセンス料が不要なLinuxベースのプラットフォームである。

 米Texas Instruments社の無線端末ビジネスユニットでオープンソースソフトウエア担当戦略マーケティングマネジャを務めるEric Thomas氏は、「3Gにおいても、携帯機器におけるハードウエアの実際の能力と、ソフトウエアによってエンドユーザーに提示されるメディアストリーミングなどの機能との間にはギャップがあった。ソフトウエアに着目した(OHAの)手法により、ユーザーが長い間期待してきたレベルのサービスの利用が増加するだろう。その次には、インフラストラクチャに影響を及ぼすことになる」と語る。スイスST-NXP Wireless社のビジネス開発担当バイスプレジデントを務めるTon Van Kampen氏は、「ソースコードを公開している英Symbian社や米Microsoft社のOS、そしてAndroidでは、OSと半導体チップを緊密に連携させるプロプライエタリなOSよりも多くのメモリーや処理能力が必要となる。しかし、これらのソフトウエアを利用する場合、それぞれの仕様が公開されているので、開発者は容易にアプリケーション開発を行えるようになる」と説明する。

 iPhoneに対抗したフィンランドNokia社の新機種「5800 XpressMusic」も2008年10月に発表された。タッチパネルを採用したことや形状がiPhoneに似ている同製品は、Symbian社のOSを採用し、GPSナビゲーション機能も搭載している。また、カナダRIM(Research In Motion)社が2008年10月に発表した「Blackberry Storm」は、キーボードを持たず、タッチスクリーンだけを備えている。この製品は、GPSナビゲーション機能や、写真共有サービス、ソーシャルネットワーキングサービスである「Facebook」を利用するためのアプリケーションを搭載している。ほかにも、3Gネットワークをサポートする携帯電話機としては、Nokia社の「N95」、RIM社の「Blackberry Bold」、米Verizon社の「LG Dare」などがある。

 In-Stat社で無線技術およびインフラストラクチャ担当の主席アナリストを務めるAllen Nogee氏によると、Blackberryシリーズの一部の品種を含む数種の携帯電話機は、GSM通信とCDMA通信の両方に対応するという。「ただし、別個のチップセットを搭載する必要があるため、この種のデュアルモード対応機は実際には普及しなかった。3G携帯電話機向けのチップは消費電力がまだ多すぎる。WiMAXではさらに多くなる」と同氏は指摘する。

 インドなど現在も3G需要が拡大している市場では、携帯電話機の価格を20米ドル未満にすることが重要であり、半導体チップに割くことのできるコストはわずかである。ST-NXP社のVan Kampen氏は、「GSM/UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)やEDGE(Enhanced Data Rates for Global Evolution)など、当社は複数のエアインターフェース規格に対応する半導体チップを用意している」と語る。


※1…Tedesco, Gemma, "The Road to 4G: LTE and WiMax Lead the Way Worldwide," In-Stat, October 2008

※2…Nogee, Allen, "Worldwide Cellular Base Station Forecast Driven by Data," September 2008


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