トヨタ自動車とGSユアサ、AESCの開発責任者が車載用の電池技術の開発動向を明らかにした。
東京ビッグサイトで開催された『国際カーエレクトロニクス技術展』(2009年1月28日〜30日)において、『進化する自動車用2次電池〜どこまで開発が進んでいるか?〜』と題したセミナーが開催された。トヨタ自動車(以下、トヨタ)、ジーエス・ユアサ コーポレーション(以下、GSユアサ)、オートモーティブエナジーサプライ(以下、AESC)の技術者が、各社における自動車用2次電池の開発成果について講演を行った。
2008年後半から、自動車業界の市場環境は急激に悪化しており、減産や人員削減などが相次いでる。しかし、現在の不況を乗り越えた先に生まれるであろう需要を支える技術として、自動車メーカー各社が開発に注力しているのが電動自動車である。その最終製品である電動自動車の性能や価格に大きく影響すると言われているのが、蓄電デバイスである2次電池だ。すでに、ハイブリッド車「プリウス」を量産しているトヨタをはじめ、2009年〜2010年に市場投入が予定されている電動自動車の2次電池を供給する2社が講演を行うこともあり、同セミナーは注目を集めた。
トヨタからは、同社第2技術開発本部 HV電池ユニット開発部部長を務める稲津雅弘氏が講演者として参加(写真1)。現在販売中の「プリウス」と「ハリアーハイブリッド」に採用した、ニッケル水素電池のモジュール化技術について解説した。
2003年に発売した第2世代プリウスのニッケル水素電池モジュールでは、2000年に発売した第1世代プリウスのマイナーチェンジモデルのものと比べて、入出力特性が約40%向上した。これについて、稲津氏は、「2000年、2003年モデルとも、6個の角型電池セルを直列でつないだものを電池モジュールとしていた。2003年モデルでは、この角型セルをつなぐセル間の接合点を1個から2個に増やし、電池モジュール内を電流が均一に流れるようにした」と説明した。また、2000年モデルでは、セルの両側面にある集電板の上端に突き出ている部分だけを溶接していたが、2003年モデルでは集電板の下側にも溶接点を設けた。
一方、2005年に発売したハリアーハイブリッドでは、荷室の容積を確保するために、電池モジュールの低背化に取り組んだ。集電板の上端に突き出た部分をなくしてセル上部のスペースを最小化し、セル間の接合は集電板内の2点で溶接することにした。加えて、レーザー溶接を採用したことなどにより、電流分布をさらに均一化して内部抵抗を低減した。最終的には、電池モジュールを組み上げて製造する電池パックの高さを、プリウスの2003年モデルのそれに比べて20%削減ことができた。
稲津氏は、「2009年度中に発表する予定のプラグインハイブリッド車では、リチウムイオン電池を採用する予定だ。しかし、ニッケル水素電池は、今後も電動自動車の蓄電デバイスとして有力な選択肢だと考えている」と語った。
GSユアサの講演は、同社研究開発センター 第二開発部担当部長の西山浩一氏によって行われた(写真2)。同社は、2009年夏に発売される三菱自動車の電気自動車「i MiEV」に供給するリチウムイオン電池を開発している。
西山氏によれば、「当社は、航空宇宙分野や産業分野をはじめ、信頼性と耐環境性が求められるリチウムイオン電池を量産してきた。i MiEVに供給するリチウムイオン電池セル『LEV50』は、工場の自動搬送車向けに開発した『LIM40』をベースにしたものだ」という。LEV50には、LIM40に比べて容量を25%、出力密度を51%、エネルギー密度を32%向上するなど、電気自動車に必要な改良を施してある。「リチウムイオン電池の寿命に関する指標として、充放電のサイクル特性が問われることが多い。ただし、電動自動車は、1日のほとんどの時間を充電した状態で放置されている可能性が高い。従って、この充電した状態での放置寿命も確認する必要がある」(西山氏)という。
LEV50では、正極材料に熱安定性の高いマンガン酸リチウムを採用している。ただし、GSユアサでは、将来的な性能改善を目指して、さまざまな正極材料、負極材料を使った研究開発も進めている。西山氏は、正極材料の1つであるリン酸鉄リチウムを例に挙げ、「リン酸鉄リチウムは、熱安定性は高いものの充放電速度が遅い。そこで、カーボンを担持(ドーピング)したところ、充放電速度を向上できるという成果が得られた。さらに、リン酸鉄リチウムは、45℃の高温下でも寿命劣化がほぼ起こらないという特徴も判明した」と説明した。
AESCは、2007年に日産自動車(以下、日産)、NEC、NECトーキンの3社が設立した合弁企業であり、自動車用リチウムイオン電池の開発、生産、販売を行っている。2009年度末までに量産を開始し、2010年に日産が市場投入する電気自動車などに製品を供給する予定だ。現在、AESCでは、出力密度に優れるハイブリッド車用と、エネルギー密度に優れる電気自動車用の2種類のリチウムイオン電池を開発中である。
同社開発部でチーフエンジニアを務める大上悦夫氏(写真3は、「当社の電池セルは、ラミネートフィルムを使った薄型の構造を成すことが特徴である。厚さに対する表面積の比が大きいので、放熱性も高い。電極材料には、熱安定性の高い正極材料であるマンガン酸リチウムを採用している」と語る。なお、マンガン酸リチウムを正極材料に用いるリチウムイオン電池は、高温環境下で寿命劣化が促進されるという問題がある。「これは、電解質内に少量存在する水からフッ酸が生成され、フッ酸の影響で正極からマンガンが溶出してしまうことが原因だ。この問題は、正極材料にニッケル酸リチウムを混合してフッ酸を捕捉するというNECの特許により解決できた」(大上氏)という。
また、大上氏は、現時点におけるAESC製リチウムイオン電池の採用例も紹介した。日産が開発中の燃料電池車や電気自動車の実験車、富士重工業の電気自動車「R1e」に加えて、間もなくリース販売が開始されるマツダの水素エンジンハイブリッド車「プレマシー ハイドロジェンRE ハイブリッド」にも採用されていることを明らかにした。
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