タッチセンサーを利用した革新的なユーザーインターフェースを備える機器が注目を集めている。そうした動きを受けて、新たなタッチ技術を取り入れた機器を設計したいと考えている方も多いだろう。本稿では、抵抗膜方式から画像処理方式まで、各種タッチ技術の原理を紹介するとともに、機器に最適なタッチ技術とはどのようなものなのか考察する。
指やスタイラスによるパネルへの接触をセンサーで検出するタッチ技術は、この20年間で、ATM(現金自動預け払い機)のタッチスクリーンや、ノート型パソコンのタッチパッド/トラックパッド、ポータブルメディアプレーヤのスクロールホイールなど、さまざまな機器で利用されるようになった。ATMにおけるタッチスクリーンの普及状況からもわかるように、タッチ技術は一般消費者にとっても身近な存在となっている。同様に、ノート型パソコンやポータブルメディアプレーヤも広く普及しており、それらに使われるタッチ技術も、かなり一般的なものとなっている。こうしたことから、タッチ技術は、もはや旬の時期を過ぎたのではないかと思われるかもしれない。
しかし、米Apple社の「iPhone」や、米Microsoft社のテーブル型パソコン「Surface」に代表されるように、革新的なユーザーインターフェースや、コアシステムとしての新たなタッチ技術が続々と登場している。また、最近では、スマートホンや携帯型ゲーム機、パーソナルナビゲーションシステム、デジタルスチルカメラなど、出荷数量の多い民生向け携帯機器にタッチスクリーンが搭載されるようになった。こうしたことの背景には、タッチ技術の革新があり、同技術を提供している企業やOEM企業、ソフトウエア開発者などは新たな要件や技術的課題への対応を迫られている。
例えば、最新の携帯電話機では、複数個のアプリケーションソフトウエアを1つの画面上で起動することが可能となっているが、高機能化とともに小型化も進んでいる。こうした機器にタッチ技術を適用するには、タッチセンサーの検出精度やタッチ技術の導入に必要なデバイスのサイズなどについて検討し、いくつかのタッチ技術の中から最適なものを選択することが重要となる。そのためには、タッチ技術の進化の流れや、その進化を促す要因、民生携帯機器の要求を満たすための最新の技術について理解しておかなければならない。
タッチインターフェースは、1970年代初頭に発明された。それ以来、さまざまな手法が登場し、中には組み込み機器や民生用機器において成功を収めたものもあった。そして、現在でもタッチ技術の改良、発明、革新は継続して行われている。今日、携帯機器に実装されている主なタッチ技術は、抵抗膜(Resistive)方式と投影型静電容量(Projected Capacitive)方式の2つである。以下、これら2つも含めて、各種方式について説明する。
■抵抗膜方式
最も一般的なタッチ技術の実装手法は、抵抗膜方式である(図1)。この技術は、2枚の導電層の間に小さな間隔を空けるという単純な概念に基づいている。ユーザーが触れる上層は、通常、透明で柔軟性を持つポリエステルフィルムとなっており、下層にはガラス製の硬い基板が用いられる。両層の内側の表面は、比較的透明な導電体であるITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)の薄膜で均一に覆われている。
一般的な抵抗膜方式のタッチパネルは、4線式の実装を採用している(図2)。タッチパネル領域のX軸、Y軸それぞれの両端には2本のワイヤーが配置され、均一な電圧勾配を形成している。制御回路は、X軸方向とY軸方向の電圧を交互に印加する。指で接触すると、上層に圧力が掛かり下層と接触する。接点の位置は電圧として測定され、その値がセンサーの端からの距離に直接対応することとなる。
■投影型静電容量方式
投影型静電容量方式は、特に携帯機器において注目されているタッチ技術である。この種のタッチシステムでは、タッチパネルの感知領域全体にアレイ状またはマトリクス状に並んだ電極を用いる。それらの電極とユーザーが触れる面との間は、通常、ガラスかプラスチック製のカバーレンズにより分離されている。
指がタッチパネル表面に触れると、それに最も近い電極の容量の測定値が変化する。すなわち、ユーザーの指の位置は、複数の感知電極の静電容量の変化を測定することにより算出する。指を触れると、複数の電極の容量が同時に変化するように設計されており、補間演算処理によって、電極の間隔よりもかなり高い精度で指の位置を特定することができる。
■表面型静電容量方式
広く利用されているものの、携帯機器ではそれほど普及していないタッチ技術がいくつか存在する。表面型静電容量方式は、その名のとおり静電容量を利用するのだが、ITOをコーティングした面全体に、電流を連続的に流して容量を計測する。ITOは非常に脆弱なので、耐久性を持たせるために、非常に薄いハードコーティングで表面を保護することになる(図3)。指がガラスパネルに触れると、人体の静電容量によって、センサーパネルの基準容量が変化する。この静電容量の変化をセンサーパネルの4隅で測定することにより、基準電界の歪(ひずみ)を算出することができる。その計算値から、タッチ個所のXY座標を得ることが可能になる。
この技術は、実装に関する電気的な問題により、限られた小型携帯型機器にしか適用されていない。また、投影型静電容量方式ではカバーレンズにより感知電極が保護されるが、表面型静電容量方式ではカバーレンズを利用することができないため、耐久性と堅牢性に劣る。
■音響方式
音響方式のタッチ技術では、まず、ユーザーのタッチにより生じた振動を、タッチスクリーンの周りの圧電変換器が電気信号へと変換する。この電気信号は、さらにオーディオ信号へと変換される。このオーディオ信号を、あらかじめ用意されているオーディオ信号の特性ライブラリと比較することにより、正確なタッチ位置を特定する。
音響方式のタッチ技術は、ほこりやキズの影響をあまり受けないので、大画面を使用する用途に適している。また、スクリーンにはワイヤーは埋め込まれていないので、本質的に耐久性や光特性に優れた純粋なガラス製のタッチスクリーンを使用することができる。主な欠点の1つは、スクリーンに振動を与えないようなタッチの検知が不可能なことである。
■赤外線方式
赤外線方式のタッチスクリーンでは、通常、水平/垂直方向にアレイ状に配置された赤外線LEDや光センサーによって光グリッドを構成し、この光グリッドを遮るものを検出する。ユーザーがスクリーンに触れると、システムはセンサーからの出力信号の低下を測定する。この測定値からタッチ位置を算出する仕組みだ。
赤外線方式のタッチスクリーンは、最も耐久性の高い方式の1つであり、劣悪な環境にも対応できる。軍事機器などに最も適した方式だと言える。
■画像処理方式
2008年にMicrosoft社が発表したSurfaceにより、画像処理をタッチ技術として利用する手法に注目が集まった。この方式では、タッチ画面の一方の面の周囲に複数のイメージセンサーを配置し、もう一方の面に赤外線バックライトを配置する。ユーザーの指が表面に触れると、赤外線が遮断され、機器には影が投影される。複数のカメラを使用した三角測量を利用し、この影を基にタッチ個所の情報を得る。
この手法は、大画面に対応可能であるとともに、複数のユーザーによる操作にも対応できる。製品開発は初期段階にあるものの、大画面向けに手ごろな価格で実現されることが期待されている。
■歪ゲージ方式
圧力の測定には、長い間、歪ゲージが使用されてきた。通常は、タッチスクリーン上で直接測定するのではなく、スクリーンを取り付ける土台側でこの測定を行う。この方式を利用する場合、振動や重力、ユーザーのタッチによって生じる応力をそれぞれ考慮して設計する必要がある。
■そのほかの方式
いくつかの新たなタッチ技術も登場している。高い精度が求められない場合、FSR(Force Sensing Resistors:感圧抵抗体素子)を使用することができる。FSRは、加えられた圧力の増加に比例して抵抗値が低下する厚膜ポリマーである。
高い精度が要求される場合には、2枚の金属板が小さな空隙を挟んで並べられた容量性の圧力センサーを用いる。一方の板に力を加えると、2枚の板の間の容量が変化し、圧力の大きさを検出することが可能になる。
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