HD映像に対応した大画面の液晶/プラズマテレビが登場したことにより、デジタルテレビ放送やHD信号のインターフェースの普及が加速している。しかしながら、従来からのSD映像を可能な限り高画質で表示することは、今後も重要な要件となる。本稿では、コムフィルタを用い、HDディスプレイでSD映像を高画質に表示する方法について解説する。
HD(高品位)映像に対応したデジタルインターフェースや高解像度のディスプレイが普及し始めている。しかし、従来からのアナログ放送やゲーム機、ビデオレコーダなどが併存するため、HDディスプレイでもSD(標準品位)映像を高画質で表示できるようにしておく必要がある。本稿では、その方法について解説するわけだが、まずはそのベースとなるものとして、SD映像における色差と輝度の問題から話を始める。
テレビ放送が開始された当初、その映像はモノクロ、つまり白黒であった。その後、技術が進歩してカラー放送が始まった。その際、カラー放送はカラーテレビだけでなく、モノクロテレビに対する下位互換性も確保する必要があった。そのためには、利用可能な帯域内に色情報を組み込み、さらにモノクロテレビで白黒映像が正しく表示されるようにする必要があった。この要件を満たすように作成されたのがコンポジットビデオ信号である。
コンポジットビデオ信号では、色情報を、振幅と位相が変化する正弦波として輝度情報と同じ帯域に格納している(図1)。より詳しく説明すると、色差信号は、ライン周波数を1/2にしたものを整数倍したカラーサブキャリアで変調され、帯域の高周波部分に重畳される。この処理により、ライン(走査線)ごとにカラーサブキャリアの位相が反転することになる。
ディスプレイ側では、これらの輝度信号と色差信号の帯域幅を維持したまま正しく抽出し、乱れを生じさせることなく表示する必要がある。この分離を正しく行わなければ、カラーサブキャリアがラインごとに反転するたびに画像が明るくなったり暗くなったりしてしまう問題や、画像の白黒部分に色が誤って表示されてしまう問題などが生じる(図2)。
輝度信号と色差信号の分離に、ノッチフィルタやバンドパスフィルタを使用する方法がある。しかし、その場合、輝度信号に色差信号が残ったり、逆に色差信号に輝度信号が残ってしまったりといったことが発生する(図3)。輝度信号に色差信号が混ざると、図4のように「ドットクロール(ドット妨害、クロスルミナンスとも呼ばれる)」などの深刻な乱れが生じる可能性がある。また、色差信号に輝度信号が混ざる場合には、図5のような「クロスカラー」などの乱れが生じることがある。
バンドパスフィルタなどよりも、輝度と色差をより精度良く分離する手法として2Dコムフィルタが挙げられる。このフィルタでは、ある信号に、その信号自身を遅延させた信号を加える処理が行われる(図6)。このフィルタの周波数応答は、均等に間隔のあいたパルス列で構成される。それがくし(Comb)のような形をしていることから、コムフィルタと名づけられた。
この2Dコムフィルタを使用すると、ノッチフィルタやバンドパスフィルタを使用する場合よりも、精度良く輝度と色差を分離できる。特に上下のライン(走査線)に類似の信号が存在する場合には、輝度信号と色差信号をほぼ完全に分離することが可能である。
NTSC(National Television System Committee)の場合、カラーサブキャリアはラインごとに180°位相が変化する(反転する)。従って、2つの連続するラインを加算すれば、輝度成分は2倍となり、色差成分は相殺される。逆に、2つのラインを減算すると、輝度成分が相殺され、色差成分が2倍になる。
例えば、米Analog Devices社のビデオコーダーの場合、5ラインに対応した2Dコムフィルタを搭載している。このフィルタは、NTSCとPAL(Phase Alternating Line)のいずれの方式に対しても、輝度と色差を高性能に分離できるという特徴がある。このフィルタでは、現在のラインに対し1つ上と1つ下のうちどちらを適用して処理するかを、ライン間の類似性に応じて決定する適応型の処理を行う。そして、上下どちらのラインに対しても類似性がない場合には、ノッチフィルタを適用する。このような適応型2Dコムフィルタを採用することで、ある程度、高い画質を実現することができる。
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