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24ビットはオーバースペック?Baker's Best

24ビットは、本当にオーバースペックなのか――。それを判断する方法について解説する。

» 2009年06月01日 00時00分 公開
[Bonnie Baker,EDN]

 荷重計測に用いられるロードセルは、抵抗値の変化を利用して重量(力)を感知するセンサーである。抵抗値の変化は、センサー内部のブリッジ回路によって電圧信号に変換した上で出力される。高精度なロードセルの場合、定格荷重を印加したときの信号電圧は、ブリッジ回路に印加される電圧1Vに対して±2mV程度である。スペックが±2mV/Vのロードセルを使う場合、基準電圧が4.096Vであるとすると、最大荷重を印加した際の信号電圧は±8.192mVとなる。ここでは、最大目盛が250ポンド(約113.4kg)の体重計に、このロードセルを適用するケースを考える。250ポンドに対応する信号電圧は、フルスケールの1/2、つまり0mV〜8.192mVに相当する。0.25ポンドの分解能を得たいなら、信号範囲の1/1000、つまり8.192μVの信号電圧を検出できなければならない。そのためには、時間割合99.999%(ピークツーピーク値/RMS値で表される波高率が4.4となる条件に相当)*1)において、ロードセルのノイズのピークツーピーク値が8.192μV以下に保たれることが必要だ。この条件をA-D変換の性能に当てはめると、1LSBが8.192μVとなる。

図1 12ビットA-Dコンバータを使った例 図1 12ビットA-Dコンバータを使った例 ロードセルからのアナログ信号を12ビットのデジタルデータに変換する。分解能は0.25ポンドとする。

 12ビットのSAR(逐次比較)型A-Dコンバータを使用する場合、その回路は図1のようになる。図において、ロードセル内部のブリッジ回路の基準電圧は4.096Vとする。ロードセルからの信号は、計装アンプ「INA326」(以下、具体例として米Texas Instruments社の製品を取り上げる)により利得250で増幅する。従って、系としてのフルスケール電圧は±8.192mV×250=±2.048Vとなる。この信号が12ビットA-Dコンバータ「ADS7822」によりデジタルデータに変換される。なお、SAR型A-Dコンバータを用いているので、この回路にはアナログローパスフィルタが必要となる。図1の回路では、オペアンプ「OPA333」によりローパスフィルタを構成している*2)。図1の回路のコストは、合計で6米ドル以下となる。

図2 24ビットA-Dコンバータを使った例 図2 24ビットA-Dコンバータを使った例 ロードセルからのアナログ信号を24ビットのデジタルデータに変換する。分解能は0.25ポンド以下にすることもできる。

 一方、ΔΣ変調方式の24ビットA-Dコンバータを使用する場合、ロードセルからのアナログ信号は1次のローパスフィルタだけを介してA-Dコンバータに入力してかまわない(図2)。このローパスフィルタの役割は、A-Dコンバータのサンプリング周波数に近い高周波のノイズを低減することだ*3)

 図2に示した回路の場合、A-Dコンバータ「ADS1232」から生じるノイズは、波高率4.4の場合で3.7μVppである。このノイズは、先述した所要LSB値(8.192μV)に比べると十分に小さい。また、同A-Dコンバータが対応する変換電圧範囲は4.096Vあるが、信号のフルスケール電圧は±8.192mVである。すなわち、24ビットのA-Dコンバータを使用しているものの、そのダイナミックレンジの大半は不要なものとなる。一見するとオーバースペックにも映るが、ここで注目したいのは、図2の回路の部品コストが4米ドル以下に抑えられていることだ。無駄にビット数が多いように思えるが、必要な機能は実現できているし、コスト面でもメリットが得られているのである。

<筆者紹介>

Bonnie Baker

Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com



脚注

※1…『ノイズのRMS値、ピークツーピーク値』(Bonnie Baker、EDN Japan 2008年9月号、p.36)

※2…『SARコンバータに入力信号を正しく通す』(Bonnie Baker、EDN Japan 2009年4月号、p.28)

※3…『アンチエイリアスフィルタの役割』(Bonnie Baker、EDN Japan 2008年10月号、p.36)


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