今回は、「駆動点インピーダンス」について説明を行う。
図1において、プリント配線板の配線を左端で切断し、抵抗R0との接続を切り離した状態を考えてみよう。ここで、インピーダンスZ1、すなわち配線を切断した点から左側のドライバ回路側を見たときのインピーダンスを測定したとする。すると、その計測値Z1は、外部の直列抵抗R0がドライバの十分近くに実装されていて、断絶点のようなほかの障害がないとすれば、ドライバに固有の出力抵抗ZSと直列抵抗R0の和ZS+R0になるはずだ。
これを回路理論の用語を用いて表現すると、配線を切断した点の左側に見える回路の駆動点インピーダンスを測定したことになる。そして、右側の回路は回路負荷に当たる。
さらに、ZS+R0が完全な無損失伝送路の特性インピーダンスZ0に等しいと仮定する。すると、ドライバの位置において完全な整合終端条件が成立する。このように、完全に整合終端が行われたドライバの位置では、回路網の右端で反射して左に向かって進行してきた信号成分はすべて吸収される。このような回路は、直列終端された回路網と呼ばれる。
次に、このプリント配線板の最初の切断点を修復したとする。その上で、基板パターンの中ほどで切断し、その点からの駆動点インピーダンスを測定してみたとしよう。その場合の測定値Z2は、最初の測定値Z1とは異なるのだろうか。異なるとしたらどのように異なるのか。
実は、この測定のために入射した信号はいずれもドライバの位置まで伝搬し、入力部の終端ですべて吸収されて消えてしまう。反射はまったく起こらない。また、この測定によって、ドライバまでの距離に関する情報を得ることもできない。言い換えれば、信号源終端(ソースターミネーション)が完全であるなら、ドライバまでの距離が駆動点インピーダンスの測定値に影響を与えることはないのである。
完全な直列終端回路に対しては、ドライバの位置で測っても、伝送路の中間位置で測っても、100マイル離れた位置で測っても、伝送線路が完全で、かつ無損失である限り、どこででも駆動点インピーダンスが測定できる。測定結果は常に同じ値Z0だ。
今回このようなテーマを取り上げたのは、信号源終端が行われた伝送ラインについては、受信端で評価した駆動点インピーダンスを用いれば、受信信号波形の変化をきちんと予測できるということを説明したかったからだ。
駆動点インピーダンスZ3は、ほぼ純抵抗であるインピーダンスZ0に等しくなる。そのことから考えれば、駆動点インピーダンスと負荷容量CLとにより、RCローパスフィルタが形成されることが理解できるだろう。このフィルタの作用によって立ち上がり/降下エッジがなまり、回路の動作に余分の遅延が生じる。直列終端伝送ラインの受信端に構成されるRCローパスフィルタによる群遅延時間は、Z0CLとなる。完全直列終端の伝送ラインにおける余分な群遅延時間は、伝送ライン長にかかわらず同じなのだ。
直列終端回路網全体にわたる伝搬遅延時間は、開放/無負荷の状態での生の伝搬遅延時間と、伝送ラインの負荷端のRC遅延に起因する群遅延時間の和で表される。このような簡単な計算により、信号がドライバからレシーバに達するまでの伝搬遅延時間が推測できるのである。
Howard Johnson
Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。
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