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「ソフトスイッチング技術には期待もあるが課題もあり」――『第5回 パワーマネジメントセミナー』から

» 2009年09月17日 00時00分 公開
[EDN Japan]

 2009年9月10日、EDN Japan主催『第5回 パワーマネジメント・セミナー』(於:東京コンファレンスセンター・品川)が開催された。その基調講演のスピーカを務めたのは、九州大学大学院 システム情報科学研究員 電気システム工学部門 准教授の庄山正仁氏(写真1)。『ソフトスイッチング技術が開く電源の未来』と題し、同技術の歴史などを交えながら、そのメリット、デメリットなどについて解説を行った。


写真1 九州大学大学院の庄山正仁氏 写真1 九州大学大学院の庄山正仁氏 

 ソフトスイッチングとは、スイッチング電源において、共振現象を利用し、電圧または電流がゼロになるタイミングでスイッチング素子(パワーMOSFET)のオン/オフの切り替えを行うというものである。これにより、スイッチング損失を低減することが可能になる。また、波形の変化が緩やかであることから、スイッチングノイズや伝導ノイズ、放射ノイズを削減できる。こうした特徴から、スイッチング周波数を高めて、キャパシタ/インダクタの小型化を図るための手段としても期待されている。庄山氏によれば、「損失やノイズの低減を目的として『ソフトスイッチング』という技術が認識されるかなり以前から、それと同等の効果を持つ回路が使われていた。例えば、RCスナバー回路やLCスナバー回路がそれに当たる。もともと、過渡的な高電圧を吸収するものとして、回路の保護やノイズへの対策を目的として使われていたが、これらの回路により、ソフトスイッチングが目的とするのと同じ効果が得られていた」という。その後、ZCS(ゼロ電流スイッチング)/ZVS(ゼロ電圧スイッチング)方式の準共振型コンバータ、スナバーエネルギー回生回路、アクティブクランプ回路などが次々に考案された。

 また、電源の負荷となるICの高速化、高密度化、多機能化が進むに連れ、電源の低電圧化、大電流化、応答の高速化を実現するものとして、タップドインダクタ降圧型コンバータなどが生まれた。同コンバータの課題の1つに、漏れインダクタによって発生するサージ電圧があった。これを解決するものとして、アクティブクランプ回路が利用されており、結果としてソフトスイッチングが実現されている。ほかには、プッシュプルフォワード型コンバータなどでもアクティブクランプ回路が活用されている。また、アクティブクランプ回路自体の改善例として、コモンソース型のものなどが生み出された。

 ただし、ソフトスイッチングにはいくつかの課題もある。「ソフトスイッチングを実現するための回路によって発生する損失が存在することや、複雑な周波数制御が必要になるケースがあること、制御可能な範囲が狭くなること、ピーク状の電流/電圧波形が生成されるためにスイッチング素子に対するストレスが増加すること、補助スイッチの詳細なタイミング制御が必要になること、回路の構成要素が増えてコストが増加することなどが挙げられる」(庄山氏)という。また、例えば、電流だけソフトスイッチングにした場合、電圧は急峻な変化のままであることから電圧によるスイッチングノイズは削減できないことや、スイッチング周波数を高めることによって、磁性部品のコアや巻線において副次的に高周波損失やノイズが増加するという問題もある。こうしたデメリットが存在することから、庄山氏は「メリットを生かしつつ、デメリットを抑えるよう工夫し、バランス良く設計を行うことが重要だ」と指摘する。

 ソフトスイッチングの成果として期待されているものに、出力コンデンサとインダクタもシリコンチップ上に実装するワンチップ電源がある。これについて、庄山氏は「ソフトスイッチングを適用しなくても実現できる可能性があるが、いずれはソフトスイッチングが使われるようになるのではないか」と述べた。

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