プログラマブルなアナログICに普及の兆しが見えてきている。この柔軟性の高いデバイスに対する設計者の期待は大きい。しかしながら、ブレッドボードを用いた従来の設計手法のままで、そのメリットを十分に生かすことは可能なのだろうか。柔軟性と引き換えに複雑さを増したアナログICを使う上で、適切な設計手法とはどのようなものなのか。本稿ではこの点について考察する。
プログラマブルなアナログICは、何年も前からさまざまな形で提供されている。ただ、これまでは、プログラマブルなデジタルICであるFPGAほどの存在感は示せなかった。ところが、最近になって、プログラマブルかつ標準的なアナログ製品という概念が急に魅力的なものとなってきた。設計者の要求には、「コストを抑えたい」、「他社と異なる特徴を備えた製品を設計したい」、「先端の設計手法を用いたい」といったことがある。実は、これらの要求が、プログラマブルなアナログICの利点と合致しているのだ。ついに、プログラマブルなアナログICの時代が訪れたと言えるのかもしれない。
そのような時代が到来しているとすると、1つの大きな疑問が生じる。その疑問とは、プログラマブルなアナログICを利用する場合、機器の設計にはどのような手法を用いるのが最適なのかということだ。例えば、「動作検証には、ICの動作を模したブレッドボードを用いるのか」、「以前から行われているように、熟練者が直感的に回路を決定するような設計フローでよいのか」、「システムレベル言語によって回路を構成し、検証にシミュレーションを用いるのがよいのか」、「FPGAを利用する場合のような設計フローがよいのか」といった具合である。これらの問いに対する答えは複雑なものであり、簡単に結論を出すことはできない。
最適な設計手法を特定するのが困難である理由の1つは、「プログラマブルなアナログIC」という包括的な定義の下に、多種多様なアーキテクチャが存在することである。一方には、基本的な機能は固定で、主にパラメータの変更のレベルで柔軟なプログラミング性を実現するチップがある。他方には、小さな汎用アナログ機能ブロックによって大規模なアレイを構成し、アナログ版FPGAとも言えるようなプログラミング性を備えるチップも存在する。両極端にあるこれら2種類のチップは、構造的にも機能的にも大きく異なるものだ。当然のことながら、いずれを利用するのかによって、設計手法に対する要件も異なってくる。
2つの例を取り上げよう。1つは、米Lattice Semiconductor社が提供するプログラマブルなパワーコントローラICである(図1)。この多機能チップは、機器の回路基板における複数の電源の起動/停止シーケンスと出力電圧を制御する用途に用いる。内部構成の大部分は、同社のプログラマブルロジック技術をベースとしたPLDだが、高精度のA-Dコンバータや、閾(しきい)値がプログラマブルな電源モニター、D-Aコンバータなども搭載する。この構成によって、電源電圧の異常の検知や高精度のフィードバックループなどを実現する。
これと対極にある例としては、米Anadigm社のFPAA(Field Programmable Analog Array)がある。このデバイスは、スイッチドキャパシタによりアナログ信号処理回路を構成可能な汎用のアナログ回路アレイである。FPAAにおけるプログラミングの目的は、単に回路パラメータを設定することではなく、回路トポロジを構築するということを意味する。
これら2製品における「プログラマブル」の具体的な中身は大きく異なっている。そのため、両製品に対して設計者が用いる設計手法も異なるものとなる。
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