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D-Aコンバータの進化で基地局アーキテクチャはこう変わる(2/3 ページ)

» 2009年12月01日 00時00分 公開
[馬場 智(アナログ・デバイセズ),EDN]

現状の基地局アーキテクチャ

 ここで、基地局アーキテクチャの現状について説明しておく。現在は、基地局の送信側のアーキテクチャとして、一般的に以下の3つの方式が用いられている

  • ダイレクトコンバージョン(Direct Conversion)
  • コンプレックスIFコンバージョン(Complex IF Conversion)
  • リアルIFコンバージョン(Real IF Conversion)

図2 現状の基地局アーキテクチャ(送信部) 図2 現状の基地局アーキテクチャ(送信部) 

 図2に、それぞれの方式における典型的なブロック図を示した。図2(a)のとおり、ダイレクトコンバージョンとコンプレックスIFコンバージョンとでは、その構成と使われている主要なデバイスはほぼ同じである。両アーキテクチャの違いは、デュアルD-Aコンバータの出力を直交変調器に入力して所要のRF周波数に変調する方式における以下の点にある。すなわち、ダイレクトコンバージョンでは、D-Aコンバータから出力する信号がI/Qのベースバンド信号となる。一方、コンプレックスIFコンバージョンでは、まずD-Aコンバータが内蔵するデジタル変調器を使ってIF周波数への変調処理を行う。そして、変調後の信号を用いて、直交変調器で所要のRF周波数の信号を出力するのである。

 最近、このような方式には、14ビットまたは16ビット、500MSPS〜1GSPSクラスで、インターポレーション機能とデジタル直交機能を内蔵したD-Aコンバータが使用されている。これにより、D-Aコンバータのサンプリング周波数Fsの1/2、1/4、1/8の周波数でFPGAとのインターフェースを持つことができる。また、インターポレーション機能の内蔵およびサンプリング周波数の高速化により、D-Aコンバータの出力と直交変調器との間に配置するアナログフィルタの特性を緩和することが可能となっている。

 もう1つのアーキテクチャであるリアルIFコンバージョン(図2(b))は次のようなものだ。まず、FPGAあるいはASICですでに変調済みのデジタル信号をシングルD-Aコンバータに入力する。次に、その出力として得られたIF周波数の信号を、シングルミキサーに入力してアップコンバートする。それにより、所要のRF周波数の変調波信号を出力するというものである。この方式の場合、D-Aコンバータがインターポレーション機能などの付加機能を備えている必要がなく、またシングルD-Aコンバータで実現できるというメリットがある。

 その半面、より高速なインターフェースを有したFPGAが必要になるため、FPGAとD-Aコンバータとの間のパラレル配線をすべて同じ長さにしなければならないといった実装上の制約が生じる。加えて、高調波信号を除去するために、D-Aコンバータの出力部にSAW(弾性表面波)フィルタのような急峻な特性を有するフィルタを配置する必要がある。

表2各アーキテクチャのメリット/デメリット 表2各アーキテクチャのメリット/デメリット 

 表2に、これら3つの方式のメリット/デメリットについてまとめた。実装面積、消費電力ならびにトータルコストの3点について比較した結果、基地局メーカーは、ダイレクトコンバージョンまたはコンプレックスIFコンバージョンが最適であるとし、いずれかを採用しているケースが多いだろう。しかしながら、各方式にはそれぞれにデメリットがあることや、今後のデバイスの進化などを考慮すると、将来にわたってダイレクトコンバージョンまたはコンプレックスIFコンバージョンが最適というわけではないと考えられる。

 今後のさらなるプロセスの進化により、高速化、低消費電力化に加え、より高度な付加機能が集積されることにより、D-Aコンバータから直接、所要のRF周波数の信号を出力することが可能になる。それにより、基地局のアーキテクチャは数年のうちに大きく変化するであろう。その1つが、本稿で紹介するダイレクトRFコンバージョン(Direct RF Conversion)というアーキテクチャである。以下、そのベースとなるものとして、アナログ・デバイセズのD-Aコンバータを具体例として取り上げて説明する。

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