SSDの市場が急速に拡大している。その利点が広く知られるようになるに連れ、多くの用途でSSDが利用されるようになってきた。だが、この新しいデバイスの能力と制約については、多くの誤解があるのも事実だ。そこで本稿では、その能力と制約について改めて解説するとともに、SSDの今後の可能性について検討してみたい。
フラッシュメモリーを利用したソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)は、これまでの安定したストレージ業界に大きな変化をもたらしている。まだ製品として成熟の域にあるとは言えないが、これまでのところは成功を収めており、将来の展望も明るいように思える。例えば、堅実な市場を確保していた1.8インチのハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)は、あっという間にSSDに置き換わってしまった。今日、小型のHDD製品が発表されてもそれほど話題に上らなくなったのは、SSDが存在するためだ。
Linuxを搭載したネットブックやタブレット型パソコンなどの携帯型コンピュータ機器は、かなりの割合でHDDの代わりにSSDを搭載している。また、「Windows」や「Mac OS X」を搭載した薄型、軽量で従来型のノート型パソコンでも、SSDへの移行が進んでいる。
一方、サーバー機器などのエンタープライズコンピューティング分野は、一見したところSSDが対象とする領域ではないように思える。なぜなら、この市場で求められるのは非常に容量の大きいストレージなので、高価なSSDよりも従来からのHDDを利用することでコストを抑えるべきだと考えられるからである。だが、実際にはSSDは少ない消費電力や高い信頼性、超高速な読み出し速度といった利点を備えることから、エンタープライズ分野にも目覚しく進出している。特に、IT(情報技術)分野では、HDDを使う場合でも、そのアクセス性能を最大化するために、プラッタ(円板部)において最高速でアクセスできる部分のみをフォーマットし、残りの部分は使用しないということも行われている。このような特殊な使用方法の場合、「HDDはSSDよりもコスト面で有利」という主張が怪しくなっている。
また、従来はHDDが搭載されるのが一般的だった製品にも変化が起こっている。発売当初はHDDを搭載していた製品において、途中からSSDに移行するということが行われているのだ。
HDD、SSDの両技術にはそれぞれを推進する勢力があり、SSDがどの程度、従来技術であるHDDに取って代われるかという議論が行われている。しかし、業界全体のレベルでは、まだどちらがよいかという結論は出ていない。ただ、そうした議論からは、SSDの長所と短所に関するいくつかの基本的な誤解があることがうかがえる。また、米EDN誌の過去の記事に対する読者のフィードバックからも、同様の誤解が存在することが明らかになっている*1)。本稿では、少なくともそのような誤解のうちいくつかを正したいと思う。
まず、SSDとHDDの違いについて考えてみる。ただし、コストや消費電力などの比較項目については周知の事実であると見なし、本稿では触れないことにする。これらを除くと、SSDとHDDの違いは、以下に示す基本的な数項目で表すことができる。
まず、SSDを利用する場合、ストレージからシステムへのインターフェースにおいて大きなボトルネックが存在しない。そのため、特にランダムアクセスが発生する用途においては、HDDを利用するよりもデータの読み出しが格段に速くなる。その一方で、特にランダムアクセスが発生する用途においては、データの書き込みについてはHDDよりもかなり低速である。
またSSDでは、空き容量がなくなると、ブロック消去遅延が総書き込み遅延のうち大きな割合を占めるようになる。フラッシュメモリーでは、ビット単位で論理レベルの1を0に変更することが可能だが、1ビットでも0を1に変更するには、そのビットを含むブロック全体のデータを消去する必要がある。つまり、 HDDとは異なり、フラッシュメモリーは「完全ビット変更可能性」を持たない。
もう1つの大きな相違点は、フラッシュメモリーは消去サイクルを繰り返すと劣化することだ。ただし、劣化はブロック単位で生じ、予測が可能な事象である。そのため、フラッシュメモリーへのアクセスをコントロールするコントローラは、これを事前に検出することができ、種々の方法で対処可能となっている。一方、HDDにおける故障の多くは、突然、しかも全体規模で生じる。
さらに、SSDは半導体をベースとしているため、HDDよりも、急な衝撃や持続的な振動などに対する耐性がはるかに高い。磁界などの環境的な干渉に対しても、HDDと比較すると高い耐久性を備えている。
※1…Dipert, Brian, "Solid-state drives challenge hard disks," EDN, Nov 13, 2008, p.25
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