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太陽光発電を支える電力変換手法小規模システムに最適な方式とは?(2/3 ページ)

» 2010年04月01日 00時00分 公開
[Margery Conner,EDN]

マイクロインバータの信頼性

 太陽電池アレイで利用するような大型のパワーコンディショナは、本体のコストもさることながら、設置のためのコストも高くつく。DIY(Do It Yourself)型など小規模の太陽光発電システムを望むユーザーにとっては、直流30Vという低い入力電圧のみに対応し、定格出力電力が200Wの小型パワーコンディショナ(マイクロインバータ)が魅力的な製品となっている。このようなマイクロインバータが扱う電圧の大きさは、交流に変換して出力する際の電圧である200V〜300V程度にとどまる。一方、太陽電池アレイの場合には、アレイから大型パワーコンディショナに出力される直流電圧が、米国では最大600V、欧州では1000Vにもなる。これは、太陽光発電システムの施工担当者、メンテナンス担当者にとって危険なレベルである。

写真1 Enphase社のマイクロインバータ 写真1 Enphase社のマイクロインバータ Enphase社のマイクロインバータを使えば、各太陽電池パネルが発電する電力を最適化することができる。小規模システムでは、この種のマイクロインバータを利用する方法が検討されている。

 マイクロインバータを業界に先駆けて販売した企業の1つである米Enphase Energy社は、定格出力電力200Wの製品を約200米ドルで販売している(写真1)。つまり、1W当たりの価格は約1米ドルである。一方、他社が提供している、定格出力電力が3kWの太陽電池ストリング向けパワーコンディショナの価格は約2000米ドル。1W当たりの価格は約67セントになる。Enphase社は、「当社のマイクロインバータは、設置や維持のためのコストを低減できるので、1W当たり33セントという差額を補うことが可能だ」と述べている。

 しかし、マイクロインバータは、信頼性の面で問題を抱えている。一般的なパワーコンディショナは、出力のフィルタリングのために電解コンデンサを使用している。そして、太陽光発電システムの動作温度が上昇すると、電解コンデンサに不具合が発生することが多いと言われている。大型のパワーコンディショナ1台で全体を制御するシステムに比べて、10〜20台のマイクロインバータを使用するシステムのほうが、電解コンデンサに起因する故障が発生する確率は高い。太陽電池パネルそのものは、25〜30年の寿命が保証されているので、パワーコンディショナにも同等の寿命が求められている。マイクロインバータも例外ではない。

 Enphase社のウェブサイトには、電解コンデンサの信頼性データと寿命に関する数件のホワイトペーパーが掲載されている。あるホワイトペーパーには、マイクロインバータに用いる電解コンデンサの寿命を見積もるための手法が説明されている*2)。同社によれば、電解コンデンサの信頼性データが良いほど、太陽光発電システムを実際の環境で運用した場合の寿命が長くなるという。従来型のパワーコンディショナの電解コンデンサは、85℃の環境における寿命が2000時間にすぎない。一方、Enphase社のマイクロインバータには、105℃の環境で4000〜1万時間の寿命を持つ電解コンデンサ(ニチコン製)が使用されている。

 電解コンデンサの寿命は、動作温度が10℃低下するごとに2倍になるというアレニウスの式に従う。例えば、NREL(米国立再生可能エネルギー研究所)の太陽光照射量データベースによると、カリフォルニア州の砂漠の中にあるリゾート都市パームスプリングスの大気温は最高で46℃に達する*3)。このとき、電解コンデンサの中心温度は65℃になる。ニチコンの電解コンデンサの105℃における寿命を1万時間とすると、それよりも40℃低い65℃での寿命は16万時間となる。Enphase社は、「寿命が20年になるようにマイクロインバータを設計した」と主張しているが、同社のウェブサイトにおける同社製品の保証期間は15年間にとどまっている。

 また、マイクロインバータの性能は、低電圧スイッチング素子の効率が向上していることによる恩恵も受けている。

 一般的な太陽電池パネルの出力電圧は25V〜30Vである。マイクロインバータでは、電力変換の最初の制御段においてその出力電圧を40Vまで昇圧することが多い。このような用途に用いるMOSFETのオン抵抗の値は、ここ10年間で1桁低下した。例えば、ドイツInfineon Technologies社の製品で、定格電圧が40Vの「Optimos-3シリーズ」は、オン抵抗がわずか1.1mΩである。これに対して、10年前の同じクラスのMOSFET製品はオン抵抗が10mΩ以上あった。加えて、デスクトップ型/ノート型パソコンのマザーボード上で行うオンボードのパワー制御をはじめ、民生用機器に低電圧MOSFETが広く使用されるようになったことにより、それらの価格が低下した。


脚注

※2…Fornage, Martin, "Reliability Study of Electrolytic Capacitors in a Micro-Inverter," Enphase Energy, Sept 29, 2008, http://www.enphaseenergy.com/downloads/ElectolyticCapacitorLife092908.pdf

※3…"Hourly meteorological data for locations throughout the United States," National Solar Radiation Database, http://rredc.nrel.gov/solar/old_data/nsrdb/1991-2005/tmy3


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