静特性を測定するときには、印加パルスが安定している期間に観測を行う。これは浮遊容量に対して充電される電流値などを含めた結果を測定してしまうことを避けるためである。また、電圧と電流を同時に観測することによって、高確度な測定を実現することも可能になる。
パルス幅を短くすると観測時間も短くなる。もし、存在するノイズがホワイトノイズであると仮定するならば、S/N比を向上するには、同一のパルス/バイアスで複数回の測定を行って、結果を平均することが効果的である(図19)。
パルス掃引を行う場合、デューティ比を小さくすると、パルス幅が一定であるという条件の下では、掃引ステップごとに要する時間は長くなる(図20)。そのため、所望の掃引点数によってデバイスの特性曲線を得るまでの全体としての測定時間も長くなる。
ただし、十分に小さなデューティ比をとれれば、パルスを出力していない期間にはデバイスにおける発熱が起こらないので、前に印加したパルスによる影響を受けずに済むというメリットが得られる。比較的点数の少ないパルス掃引の結果を順次編み込むことで、掃引/バイアス条件などの変更に対する特性曲線の変化を素早く確認しつつ、最終的に周密な特性曲線を得ることができる(画面2)。
ここで改めて、高電圧測定と低オン抵抗測定の特徴について整理しよう。
まず、高電圧測定については以下のような事柄がポイントになる。
一方、低オン抵抗測定については、以下のようなポイントがある。
以下に、それぞれの測定において、どのような測定系が必要になるのかを説明する。
図21(a)は、アジレント・テクノロジーのパワーデバイスアナライザ「Agilent B1505A」で使用されているケーブルの断面図である。このように、高電圧測定用のケーブルは3層同軸構造を採用している。中心導体の径は細く、中心導体と中間導体との間の距離を離すことによって両者間の容量を減らしている。これは、ガード経由で周り込むノイズの影響を小さくするためだ。中間導体と外部導体の間は絶縁耐圧が必要なので絶縁体は厚くする。このような構造の3層同軸ケーブルに対応するために、専用のコネクタが開発された。
一方、図21(b)に示した大電流/低オン抵抗測定用のフォース線ケーブルは、2層同軸構造を成している。大電流を流すため、中心導体は太く、リターン電流を外部導体に流すことでインダクタンスを低減する。同軸構造の場合、中心導体と外部導体の間にある絶縁体を薄くすることで、さらにインダクタンスの低減効果を高めることができる。コネクタはBNCを使用している。
このように、パワーデバイスにおける高電圧測定と大電流/低オン抵抗測定では要求される測定系が異なる。もし、これらの2つの異なる測定系を1つの測定系で両立できれば、パワーデバイスのオン領域とオフ領域をまたがる自動計測が可能になり、測定時間を大幅に削減できるようになる。しかし、この両立を実現するには工夫が必要だ。
例えば、大電流を流すために3層同軸ケーブルの中心線を太くし、耐圧を得るために、中心導体−中間導体の間の絶縁体、および中間導体−外部導体の間の絶縁体を厚くすることが考えられる。この場合、ケーブルは太く、硬く、曲げにくくなって、取り扱いが難しくなる。そこで、測定対象であるデバイスの直前まではそれぞれ適切なケーブルを使い、そこからわずかな距離だけ、2つの測定系を両立できるケーブル(以下、両立ケーブル)を利用することを考えてみる。
図22は、大電流用と高電圧用、2つの異なる測定系をデバイスの直前で切り替えるセレクタを利用する手法の概略図である。まず、大電流測定用のSMUからセレクタまでのフォース線ケーブルには、低インダクタンスの同軸ケーブルを用いる。一方、センス線ケーブルには、センス信号への外来ノイズの干渉を低減するために3層同軸ケーブルを使用している。また、高電圧測定用のSMUからセレクタまでについては、高電圧ケーブル/グラウンドケーブルとも3層同軸ケーブルを用いる。
セレクタからデバイスまでは、長さ数十cm程度の4本のケーブルで接続する。これらのうち、ハイ側のフォース線ケーブルには、高電圧測定と大電流測定の両方に対応できる両立ケーブルを用いる。ハイ側のセンス線ケーブルには、大電流を流さないので、高電圧用の3層同軸ケーブルを利用する。ロー側のセンス線ケーブルとフォース線ケーブルは、高い電圧がかからないので同軸ケーブルを使用する。
このセレクタを用いることにより、大電流を測定するのに必要な4端子接続の状態と、高電圧を測定するときの2端子接続の状態を切り替えることができる。なお、2端子接続のときには、未使用の2端子の接続を開放する以外に、ケーブルの中間導体にガード電圧を与えることで高い絶縁性能を保つことも可能だ。
セレクタとデバイスを接続する両立ケーブルは、高電圧の測定に対応することを考えると3層同軸ケーブルであるべきだ。しかし、先に述べたとおり、大電流の測定に対応するためには中心導体や絶縁体を厚くしなければならないため、非常に径の大きいケーブルになってしまう。しかし、図22のようなセレクタを用いる手法であれば、両立ケーブルを用いるセレクタとデバイス間のケーブルの長さは数十cmと短いので、両立ケーブルに対して外来ノイズが干渉する可能性は低い。そこで、以下のような構造を採用することで、両立ケーブルを実現した。
まず、ケーブルとしては、同軸ケーブルを用いる。この同軸ケーブルでは、中心導体に信号電圧を、外部導体にガード電圧を印加する。このガード電圧として印加される高電圧の絶縁は、フッ素樹脂(FEP)を用いたケーブルのジャケットにより実現する。なお、この両立ケーブルのコネクタとしては、安全のために3層同軸用のものを使用する。
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