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3D普及への道対応機器で解決されるべき課題とは?(2/3 ページ)

» 2010年08月01日 00時00分 公開
[Brian Dipert,EDN]

3Dの実現方式

 映画『スターウォーズ』で披露されたような3Dホログラム技術の研究には、さまざまな企業や研究施設、学術機関が取り組んでいる。しかし、今後もしばらくは、3Dコンテンツを視聴するための手段として、2Dディスプレイが大きな割合を占めることになるだろう。では、2Dのディスプレイにより、どのようにして視聴者の目と耳を錯覚させ、平坦な映像を立体視させているのだろうか。

 現在、3Dの実現手法としてはさまざまなものが存在するが、そのすべてが同じ基本概念に基づいている。すなわち、1フレームごとに遠近補正された右目用の映像と左目用の映像を、切り替えがわからないほど速いレートで、視聴者の右目/左目に同時または交互に見せるのである。そうすれば、脳がそれらの映像をつなぎ合わせたときに立体感が得られるようになる。

図1アナグリフ方式の3Dに対応した挿絵(EDN誌に掲載された記事より) 図1 アナグリフ方式の3Dに対応した挿絵(EDN誌に掲載された記事より) 

 しかし、問題はもっと詳細な部分にある。1950年代から存在するアナグリフ方式メガネは、一般的に、赤と青のフィルタを利用する(ただし、ここから派生した最近の手法では、異なるパターンが使用されている。別掲記事『さまざまな3Dメガネ』を参照)。これらのフィルタにより、脳は、同じフレームに対して、右目と左目で異なる映像を認識することができる。ちなみに、米EDNは10年近く前、アナグリフ方式の3D技術に関する記事を掲載し、紙製のメガネをその号の付録に付けたことがある(図1*7)

 アナグリフ方式であれば、比較的安価に3Dを実現できるが、同方式にはいくつかの顕著な欠点がある。そのため、業界に導入された際には視聴者から多大な批判を浴びた。1つ目の欠点は、カラーフィルタによって視聴者の目に届く光の量が大きく減衰し、それぞれの目が見る映像の色域が狭くなることである。2つ目は、片方の目に対応するはずの映像の一部がもう片方の目にも見えてしまう、映像の“ブリードスルー”(にじみ出し)が生じることだ。このブリードスルーにより、3D映像に歪(ひずみ)が生じる。3つ目は、メガネのサイズが、視聴者の頭の大きさや目の間隔、画面からの距離、画面に対する視野角に合わない場合が多いことである。これらの欠点により、視聴者が頭痛、吐き気、めまいなどの症状を起こす可能性があった。

図2 3Dメガネの種類 図2 3Dメガネの種類 アナグリフ方式(a)、パッシブ方式(b)、アクティブシャッター方式(c)の各メガネには、それぞれメリット/デメリットがある。各種デメリットを克服するために開発されているのが、メガネが不要な自動立体視ディスプレイだ(d)。

 それ以来、業界では、メガネが不要な自動立体視ディスプレイの開発を進める一方で、いくつかの種類の3Dメガネを開発してきた(図2)。その1つに、アナグリフ方式メガネの派生版ともいうべき、偏光フィルタを利用するパッシブ方式のメガネがある。パッシブ方式では、アナグリフ方式と同じように明度は低下してしまうが、彩度の低下は生じない。それぞれの目に対し、互いに偏光方向が異なる光を利用する遠近補正映像を与える。メガネの各レンズの偏光性を、それぞれの映像に対応させることにより、正しい映像が正しい目に届けられる。直線偏光を使用した従来型のパッシブ方式では、視聴者が少しでも頭を傾けると映像を立体視できなかったが、円偏光を使用した、より新しい方式では、こうした問題点がかなり解決されている。

 現在一般的に使われているもう1つの3Dメガネは、各レンズに液晶シャッターを利用するアクティブシャッター方式のものである。このメガネでは、右目と左目への光の通過と遮断を交互に繰り返し、それと同じタイミングで右目用と左目用の映像を交互に投射する。

 映画館にパッシブ方式システムを導入するには、正確な速度で回転する偏光ディスクを投影レンズの前に配置した単一のプロジェクタか、同期して交互に動作する2台のプロジェクタを使用することになる。どちらの場合にも、従来のスクリーンを、投射された光の偏光特性を維持する特殊なシルバースクリーンに張り替える必要がある。一方、アクティブシャッター方式を導入する場合は、スクリーンを張り替える必要はなく、プロジェクタも1台で済む。この方式では、通常、赤外線を使ってメガネと映像の同期をとる。しかし、同方式のメガネは、パッシブ方式のメガネと比べてかなり高価で、形状も大きく、また、映画館では、メガネが内蔵する電池を定期的に充電しなければならない。メガネを再利用するにはクリーニングも必要で、一部の視聴者からは衛生に関する懸念の声も挙がっている。

3Dメガネが抱える問題

 3D映像を視聴する場を映画館から一般家庭へと移すと、その実現方法の選択肢は格段に増える。映画館の構成をまねて、DLP(Digital Light Projection)や液晶、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)技術を採用する単一のプロジェクタまたは2台のプロジェクタを使用することも可能である。ただし、これはビデオマニアではない一般の人向きではない。

 最近のダイレクトビュー型の液晶/プラズマディスプレイテレビは、スイッチングやリフレッシュを高速に行うので、スタッター(変則的なリズムの「もたつき」や「ため」)のない再生が行える。そのため、赤外線やRF、または有線接続によってディスプレイ本体と同期させるアクティブシャッター方式のメガネを利用可能である。

 また、パッシブ方式を採用した液晶ディスプレイも存在する。この場合のディスプレイには、走査線1ラインごとに偏光フィルタが張られる。偏光フィルタは、そのラインの映像を視聴者の片目用に調整する。この方式の主な欠点は、それぞれの目が認識する実質的な垂直解像度が半分になってしまうことだ。なお、メガネなしで視聴できるように、ディスプレイが動的に3Dコンテンツから2D視聴用に変換したものや、ごく普通の2Dコンテンツを視聴する際には、偏光効果を無効にできる。

 実は、メガネを使用するすべての3D技術は、いくつかの大きな欠点を抱えている。まずはサイズの問題がある。メガネと視聴者の顔の大きさが合わない場合、不快感やそれ以上の問題が生じる。サイズが合わないと、破損や誤った着用の恐れがあり、メガネを交換しなければならない状況になるかもしれない。

 また、先述したように、アクティブシャッター方式のメガネの場合、定期的に充電を行う必要がある。万が一、映画の途中でメガネの電池が切れてしまったら、観客の不満を招くだろう。

 加えて、新しい技術にはつきものの、互換性の問題もある。友人や親せきの家では使用できない3Dメガネや、新たな技術の出現によって使えなくなる可能性のある3Dメガネに対して、消費者は投資しようとは思わないだろう。

さまざまな3Dメガネ

 すでに広く普及している3Dメガネと言えば、アナグリフ方式、アクティブシャッター方式、パッシブ方式の3種類を挙げることができるだろう。だが3Dメガネの種類は、これだけではない。注目は、アナグリフ方式とパッシブ方式の性質を組み合わせた米Dolby Laboratories社の3Dメガネだ。この3Dメガネは、アナグリフ/パッシブ両方式のメガネのように、比較的軽量で安価である。アナグリフ方式と同様に、細かい粒度でカラースペクトルを分割することにより、右目用と左目用の映像に視差を与える。パッシブ方式と同じなのは、それぞれの目がフルスペクトルの映像を見ることになる点だ。異なる点としては、映画館を改装して高価なスクリーンを設置する必要がないことが挙げられる。

 米Chromatek社の「ChromaDepth」は、現代版のアナグリフ方式メガネである。メガネのレンズに付いているマイクロプリズムベースのフィルムを利用して、物体の奥行きを可視光スペクトルに応じて変化させるというものだ。

 また、プルフリッヒ効果を利用するタイプの3Dメガネもある。プルフリッヒ効果とは、人間の視覚システムにおける錯覚のことで、片目分だけ視界を暗くすると、左右の目が認識する物体の速度に違いが出て、その物体が立体的に見えるというものである。この種のメガネを供給するメーカーは、片方の目に暗いレンズを使用することにより、この効果を実現していることが多い。そうすると、物体が左から右に動いた場合に、3Dでは前後に動いているように見える。米Coca-Cola社は、『第23回スーパーボウル』のハーフタイムに、このプルフリッヒ効果を利用したコマーシャルを放映した。



脚注

※7…Dipert, Brian, "Balancing in three dimensions," EDN, April 27, 2000, p.54


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