1983年のこと、筆者は、師と仰ぐMartin Graham博士から1つの指示を受けた。あるツイストペアケーブルのコモンモードインピーダンスを測定するために、ホイートストンブリッジ回路を作るよう命じられたのだ。そのツイストペアケーブルは、現在ではカテゴリ3のUTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブルとして知られるものである。
コモンモードインピーダンスの測定は、10MHz〜100MHzを含むかなり高い周波数範囲で行われる予定だった。このような周波数では、抵抗の寄生直列インダクタンスやシャント容量についても考慮しなければならない。このような制約があることから、トリミングポテンショメータ(半固定可変抵抗器)を利用して厳密な抵抗精度を得るという方法は除外されることになる。結果として、筆者が考えた回路構成は、誤差が±0.5%以内のカーボン複合抵抗をいくつか必要とするものとなった。
筆者は、研究室でそのような高精度のカーボン複合抵抗を探したが、見つけることはできなかった。その代わりに、誤差が±2%の金属フィルム抵抗がいくつか見つかった。しかし、金属フィルム抵抗の場合、製造工程で抵抗値を微調整するために、メタルフィルムに蛇行したパターンをエッチングによって形成することがある。その結果、寄生直列インダクタンスが増大し、筆者の用途では許容できないレベルになることがわかっていた。
それに対し、カーボン複合抵抗は、単純な円筒形状で作られるため、高周波の用途に適している。この理由から、筆者は、使用可能なカーボン複合抵抗を引き続き探すことにした。
見つけることができたのは、誤差が±10%のカーボン複合抵抗だった。それでも、1つずつ値を実測して厳選すれば、何とか事足りるだろうと考えた。誤差が±10%の抵抗が100個あれば、10個くらいは誤差±1%以内のものがあるだろうし、おそらく、正規分布で値がばらつくとすれば中央部分に数が集中するから、実際に使えるものはもっと多いだろうと考えたのだ。
ところがである。予想と大きく異なることが起きた。筆者は1時間かけて300個の抵抗をチェックした。しかし、初期選択の閾(しきい)値として考えていた±1%という値に収まるものすら1つも存在しなかったのだ。
実際の抵抗が、±10%の誤差幅の全体にわたって均等に分布するように作られているとしよう。そうすると、任意の1つの抵抗が誤差±1%の幅に入る確率は0.1になる。逆に、任意の1つの抵抗がこの幅から外れる確率は0.9である。任意で1つを選ぶという試行を300回繰り返した結果、すべての抵抗がその幅から外れる確率は(0.9)300=1.9×10−14となる。このような低い確率の事象が筆者の300個のサンプルで実際に起きてしまったのである。
筆者は大いに混乱し、Graham博士の指導を請うことにした。そのとき、博士はカフェテリアでミートローフのサンドイッチを楽しんでいるところだった。博士は、ケチャップで汚れたテーブルナプキンに我慢強く奇妙な図を描いた(図1)。その図が完成したところで、博士は次のように話した。
「誤差が±10%のカーボン複合抵抗は多少粗雑な方法で製造されている。おそらく、メーカーは誤差を抑えようとパラメータの制御を試みているだろうが、実際にはいくつかのパラメータの制御は難しすぎて、満足のいく結果が得られないのだ。メーカーは出来上がった製品のすべてを試験で振り分ける。その結果、不良品として判定されたものは廃棄しているのだろう。試験にパスした抵抗の値の分布は、図の両端に当たる±10%の位置より外にあるものが切り捨てられた状態になる。この分布図のもう1つの重要な特徴は、中央部に大きなすき間が存在することだ。このすき間は、たまたま精度の良かった製品をすべて抜き取ったことで生じている。この領域に該当した製品は、誤差±5%以内の製品として高い価格で販売できる。おそらく、誤差±5%のカーボン複合抵抗は、このような方法で“作られている”のではないか」。
博士の説明が自分の体験と完全に合致していたため、大いに納得できた。博士は一呼吸置いて、別の観点から次のような知恵を授けてくれた。
「標準値からプラス側、マイナス側に7%外れた値の抵抗でも動作するように回路を設計することだ。そうすれば、必要な部品はいくつでも選別することができるだろう」。
Howard Johnson
Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。
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