上記いずれかの方法により、光学系についてはライトフィールドの取得が可能になったとしよう。その場合、バックエンド側はどのようなシステムにすればよいのだろうか。
従来の2次元画像撮影システムからの発展形として考えると、まずは図20(a)のように、ライトフィールドを取得する光学系の後ろに、ライトフィールドのデータを処理して2次元画像を出力する専用ハードウエア(ライトフィールド処理エンジン)を配置する構成が考えられる。この構成であれば、後段に既存の画像処理エンジンを使用することができる。いずれライトフィールド処理エンジンと既存の画像処理エンジンは図20(b)のように統合されるであろうが、筆者らはライトフィールド処理エンジンを用いる図20(a)のシステム構成で評価ボードの試作を進めている(図21)。
この例では、ライトフィールドを取得する光学系には、小型カメラを多数配置したカメラアレイ方式を用いている。また、ライトフィールド処理エンジンはFPGAによって実装する。既存の画像処理エンジンとしては、市販のイメージセンサー評価ボードを使用している。このイメージセンサー評価ボードは、単一のセンサーからの画像を取り込むように設計されている。ライトフィールド処理エンジンは、この設計に適合する形でイメージセンサー評価ボードに対して通信を行う。すなわち、イメージセンサー評価ボードにとって、ライトフィールドを取得する光学系とライトフィールド処理エンジンが、全体として1つのイメージセンサーに見えるように振る舞う。
図22に示したのは、ライトフィールド処理エンジンの概念図である。図21のシステム仕様に従って、ライトフィールドはN視点の画像として入力され、同エンジンは結果として単一の画像を出力する。図21ではFPGAに外部メモリーを接続しているが、図22の構成では使用していない。ここでは、利用する機能として、焦点ボケ合成、奥行き推定、前景抽出を考えた(各処理の詳細については、前掲の各参考文献を参照されたい)。各機能の演算規模は、表2のような見積もりとなる。ただし、この見積もりは各アルゴリズムの演算数を数え上げて単純にゲート数に置き換えたものである。そのほかの諸条件は表3に示したとおりだ。
カメラの未来を模索する大きな動きとなっているコンピュテーショナルフォトグラフィ。本稿では、この分野の技術のうち、ライトフィールドを中心として概要を説明した。画像処理技術はすでに実用レベルに達しており、撮影(ライトフィールドのデータ取得)方式がコンパクトで安価になれば、実用化は近いであろう。コンピュテーショナルフォトグラフィの技術は、ライトフィールド関連以外にも多数開発されて日進月歩している。この技術により、カメラの将来はさらに多様化することが期待される。
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