Appleの「iPod」シリーズなどの携帯型オーディオプレーヤーやCDプレーヤー、DVD/ Blu-rayプレーヤーなど、われわれの身の回りにはデジタルオーディオが溢れているが、正確かつ本質的にデジタルオーディオについて解説されているケースは少ない。本連載では、デジタルオーディオ特有の理論や基幹技術、応用技術、さらには実装技術などを詳しく解説する予定である。
Appleの「iPod」シリーズなどの携帯型オーディオプレーヤーやCDプレーヤー、DVD/ Blu-rayプレーヤーなど、われわれの身の回りにはデジタルオーディオを楽しむ機器があふれています。しかし、オーディオ処理用の電子回路や半導体部品の開発に長年携わってきた河合一氏は、「デジタルオーディオについて、正確かつ本質的に解説されているケースは少ない」と語ります。本連載では、デジタルのオーディオシステムを学ぶ上で押さえておくべき、さまざまなポイントを河合氏に解説していただきます。(EDN Japan 編集部)
デジタルオーディオという名称は、CDプレーヤーとオーディオCD(以下、本連載では「CDDA」と呼ぶ)が1982年に発売されて以降、急速に市場に浸透してきた。それ以前のオーディオは、音楽ソース(記録媒体)はLPレコードと磁気テープであり、レコード・プレーヤーとテープレコーダーがオーディオ再生機器の中心だった。CDDAが登場した後、デジタルオーディオのアプリケーションとしてはMD(ミニディスク)やDAT(デジタルオーディオ・テープ)が開発された。また、SACD(スーパーオーディオCD)や、DVD、Blu-rayが登場し、最近ではMP3に代表されるファイル形式でのオーディオ再生や、PC/USBオーディオ、ネットオーディオが普及……といったようにデジタルオーディオは常に発展し続けてきた。
デジタルオーディオの基幹技術は、A-D(Analog-to-Digital)変換とD-A(Digital-to-Analog)変換である。オーディオである以上、アナログ的な信号品質が重要であることは間違いない。しかし、デジタルオーディオには、従来のアナログオーディオとは異なるデジタル特有の仕様や特長、性質が存在し、それらのほとんどは再生系においてはD-A変換システムに集中することになる。
デジタルオーディオは既に実用されている技術で、さまざまな機器に広く使われている。このため、「何を今さら」という指摘もあるかもしれない。しかし、正確かつ本質的に解説されているケースは少ない。「デジタルオーディオの基礎から応用」と題した本連載では、こうした観点からデジタルオーディオ特有の理論や基幹技術、応用技術、さらには実装技術などを詳しく解説する予定である。まず、第1回と第2回では、アナログオーディオとデジタルオーディオの違いや、デジタルオーディオ信号を理解する上で押さえておくべきポイントを紹介する。
従来のアナログオーディオ信号は、一般的な電気信号と同様に、「信号レベル」と「信号周波数」で特性が規定されている。アナログソースの再生において、制御系を除けば扱う信号は完全なアナログ信号であり、アナログ信号の主要特性がそのまま適用される。アナログオーディオの再生系の全体像を図1に示した。音楽ソースの代表はLPレコードや磁気テープ(オープンリール、カセット)などであり、電気信号への変換再生機器としては、レコードプレーヤー(カートリッジを含む)やテープデッキになる。各信号処理ステージにおける雑音(Noise)によって、信号と雑音の比としてのダイナミックレンジが決まる。
一方のデジタルオーディオは、信号ソースがデジタル信号になる。デジタル信号は、元のアナログ信号の信号レベルと信号周波数に応じたデジタル情報を有している。それと同時に、「デジタル信号としての性質」を備えている。デジタル信号としての性質とは、振幅軸情報を規定する「量子化ビット数」(量子化分解能、「Mビット」とも表現される)と周波数軸情報を規定する「サンプリングレート」(サンプリング周波数、fs)とも表現される)の2大要素である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.