富士通セミコンダクターは2010年11月、英ARM社の32ビットプロセッサコア「Cortex-M3」を採用した汎用マイコン「FM3ファミリ」を発表した。同月末から、その第1弾となる44品種のサンプル出荷を順次開始する。量産開始は、2011年1月下旬から。FM3ファミリ全体の販売目標は、2011年度で100万個/月となっている。
富士通セミコンダクターは、車載向けを除く汎用マイコンのうち、32ビットと16ビットの製品について、これまで用いていた独自開発のプロセッサコアに替えて、Cortex-M3を採用する方針を明らかにしていた。このCortex-M3を用いた汎用マイコンについて正式に発表するのは、今回が初めてである。
同社マイコンソリューション事業本部で汎用品事業部の事業部長を務める布施武司氏は、「当社はこれまで、独自の32ビットコアを搭載する『FR(Fujitsu RISC)マイコン』を国内顧客を中心に展開していた。しかし、海外市場への拡販を考慮すると、開発環境、デバッグツール、ミドルウエアなどの開発インフラをよりいっそう充実させる必要がある。そこで、ARM社のCortex-M3をプロセッサコアとして採用することにより、国内外約700社に上るARM社のパートナー企業と連携して開発インフラを提供できるよう方針を転換することとした。今後のマイコンの差異化は、プロセッサコアではなく、内蔵フラッシュメモリーをはじめとする周辺機能によって図っていく」と語る。なお、富士通セミコンダクターの汎用マイコン事業の海外売上高比率は、現時点で25%と低い。同社は、FM3ファミリの投入により、この数字を50%に引き上げることを目指している。
表1に、FM3ファミリの製品区分、主な仕様、特徴、投入製品(予定を含む)を示した。
FM3ファミリは、同社が独自コアで展開していた従来の32ビット品と16ビット品の両方をカバーする製品で、大きく2つの製品ラインに分かれる。従来の32ビット品が対象としていた高い処理性能が求められる市場に対応するのが「ハイパフォーマンスライン」で、16ビット品が対象としていたコストパフォーマンスと低消費電力性能が求められる市場に対応するのが「ローパワーライン」である。また、ハイパフォーマンスラインには、サーボモーターの制御用途など産業用機器向けの「ハイパフォーマンス製品群」と、白物家電向けを中心に展開する「ベーシック製品群」がある。一方、ローパワーラインには、デジタル家電などの用途に向ける「ローパワー製品群」と、モバイル機器向けにスタンバイ/スリープ時のリーク電流を低減した「ウルトラローリーク製品群」がある。今回発表した44製品は、ハイパフォーマンス製品群に属する動作周波数が80MHzの「MB9BF500/400/300/100シリーズ」36品種と、ベーシック製品群に属する「MB9AF100シリーズ」8品種から成る。なお、今回発表されなかったローパワーラインの製品は、2011年4〜6月期の市場投入に向けて開発が進められている。
Cortex-M3を採用するマイコンは、海外メーカーではオランダNXP Semiconductors社や米Texas Instruments社などが手掛けている。また、国内でも東芝が展開を始めている。これら競合他社のCortex-M3マイコンとの差異化を図る上で最大の特徴となるのが、富士通セミコンダクター独自の内蔵フラッシュメモリー技術である。同社は、「マイコンの内蔵フラッシュメモリーについて、書き込み/消去の回数で10万回、データ保持期間で20年を保証しているのは当社だけだろう。他社の一般的なマイコン製品の場合、書き込み/消去の回数が当社の10万回よりも1桁〜2桁少ない。また、フラッシュメモリーのアクセス速度についても、動作周波数が60MHzまででは待機時間なし(ノーウェイト)での応答を実現した」としている。加えて、ハイパフォーマンスラインの製品では、電源電圧の幅を広くとっており、1つの品種で3V動作と5V動作の両方に対応することが可能だ。例えば、今回投入した44品種の電源電圧は、すべて2.7V〜5.5Vとなっている。
開発ツールは、スウェーデンIAR Systems社とARM社の子会社である米Keil社から2011年4月に提供される予定である。また、FRマイコンなどで用いていたソフトウエア資産については、「OSがμITRONで、C言語でプログラミングしているソフトウエア資産については、FM3ファミリで再利用できるような仕組みを準備する。アセンブリなどより抽象度の低い言語でプログラミングしたものについては、個別に対応する方針だ」(布施氏)という。
FM3ファミリのサンプル価格は、今回の44品種で最も性能が高い「MB9BF506RPMC」で650円となっている。
(朴 尚洙)
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