車載Liイオン電池に注目が集まり始めた2008年以降、その性能は着実に向上している。表1は、日立製作所、パナソニック、東芝が開発したLiイオン電池の量産開始時期やサイズ、性能についてまとめたものである。各社とも、HEV、PHEV、EVなどの各用途に合わせて、Liイオン電池セルの性能を高めていることがわかる。ここからは、これらの3社が行っている車載Liイオン電池開発の取り組みについて紹介する。
日立製作所は、日産自動車が2000年に発表したHEV「ティーノ ハイブリッド」などにLiイオン電池を供給したことで知られている。また、2005年には、HEVシステムを搭載するトラックやバス向けのものとして、第2世代のLiイオン電池「LIB-?」の量産を開始している。LIB-?は、いすゞ、三菱ふそうトラック・バス、米Eaton社などに採用されており、その累計出荷数は120万セルを超えたという。また、2010年末からは、米General Motors(GM)社のHEVに採用された「LIB-?」の量産を開始する予定である。さらに、開発品ではあるものの、HEV用電池セルとしてLIB-?からさらに性能を向上した「LIB-?」や、PHEV用のLiイオン電池も発表している。
日立製作所グループにおいて、車載Liイオン電池の開発/量産を担当しているのが日立ビークルエナジーである。同社のHEV用Liイオン電池では、正極や負極などに用いるベース材料を変更することなく性能の向上を実現してきた。従来から、正極材料はマンガン系、負極材料はアモルファスカーボンのままである。同社で設計開発部門担当の取締役を務める村中廉氏は、その手法について、「いかにして内部抵抗を下げるか、その1点にかかかっている」と説明する。Liイオン電池の内部抵抗は、材料やその形状から決まる電気抵抗と、充放電時に起きる化学反応に起因する抵抗に分けられる。さらに、電気抵抗や化学反応に起因する抵抗も、さまざまな要素に分解することが可能なわけだが、それれらのさまざまな要素の組み合わせによって全体としての内部抵抗が決まる。
さまざまな要素から成る内部抵抗を下げる上で問題となるのは、Liイオン電池が閉鎖系のシステムであることだ。「閉鎖系では、1つの要素を改良して内部抵抗を下げようとしても、その要素の変更がほかの要素に影響してしまい、結局はトータルでの内部抵抗が増えてしまうことも多い。当社では、各要素のバランスを図りながら、少しずつ内部抵抗を下げていくことにより、性能の向上を果たしている」(村中氏)という。
このようなアプローチによるものであるのにもかかわらず、日立製作所の最新製品であるLIV-?は、LIV-?やLIV−?よりも大幅に性能が向上している。これは、セル形状を円筒型から角型に変更したことを大きな要因として実現された。村中氏は、「角型は、円筒型と比べて放熱性が高く、内部抵抗を小さくしやすい。このため、LIV-?では出力密度やエネルギー密度などの性能を大幅に向上することができた」と述べている。その一方で、「円筒型セルにもさまざまなメリットがある。生産性が高いので製造コストの低減が容易だし、剛性も高い。そして、当社の場合で言えば累計で120万セル以上と、すでに大きな量産実績を持っていることも重要な要素だ」とも指摘している。
なお、HEV用Liイオン電池に比べて、より大きいエネルギー密度が必要なPHEV用Liイオン電池では、電極の材料や設計を従来のものから変更した。想定している車両のタイプは、「トヨタ自動車の『プリウス プラグインハイブリッド』のように、モーターのみで数十km程度の走行が可能で、電池容量が低下したときにはHEVとして走行するPHEV」(村中氏)だという。
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