1970年代になってICが普及し始めると、シャントリファレンス回路もICとして供給されるようになった。当時、米Burr Brown社(2000年に米Texas Instruments社が買収)、Analog Devices社、米National Semiconductor社などの企業は、ツェナーダイオードをICに埋め込む方法を採用していた(図3)。ICの製造プロセスにおいて、チップの表面層の下にツェナーダイオードを形成する。埋め込みJFETと同様に、埋め込まれたツェナーダイオードはICの表面に露出しないため、ダイオードは低いノイズレベルで機能する。
米国の電子工学技術者であるBob Widlar氏は、リニアアナログIC設計の分野における先駆者としても知られている。Widlar氏は、1971年に、バンドギャップ電圧効果に基づく電圧リファレンス回路(バンドギャップリファレンス回路)を採用した。このバンドギャップ電圧効果は、米Fairchild Semiconductor社の技術者であった故D F Hilbiber氏が1964年に発見したものだ。
バンドギャップリファレンス回路の出力電圧は、一般的に1.25Vで、0Kにおけるシリコンのバンドギャップ電圧にほぼ等しい(図4)。この方式の電圧リファレンスICで、出力電圧が1.25V以外であるものは、内部のゲイン回路によって出力電圧を増減させている。
National Semiconductor社の技術者であり、世界的に著名なアナログIC設計者としても知られるBob Pease氏は、Widlar氏の設計を改良したバンドギャップリファレンス回路を同社のICに採用した*7)。Pease氏は、「1980年代には、われわれが製造したバンドギャップリファレンス回路の40〜60%に、愚かな要因に起因する誤差が生じていた。このような誤差の多くは、ICのレイアウトに関連するもので、われわれは徹底した設計レビューによってそれらを修正した」と述べている。
1974年には、現在は米Integrated Device Technology(IDT)社でシニアテクノロジストを務めるPaul Brokaw氏が、誤差を小さくするためにフィードバックを利用するタイプのバンドギャップリファレンス回路を考案した。図5に示したのが、そのBrokaw(ブロコウ)セルである。Brokaw氏は、「個別部品で電源を構成しようとしているときに、降伏電圧が6.8Vのツェナーダイオードを使うのよりも低い基準電圧が欲しいと思って、この電圧リファレンス回路の構成を思いついた」と述べている。
ほかにも、Analog Devices社の「ADR440」のようなJFETベースのデバイスも存在する(図6)。JFETを埋め込むことにより、ノイズに関する仕様は0.1Hz〜10Hzで1μVppにまで改善される。ちなみに、Analog Devices社のMoghimi氏は、本稿でここまでに紹介したどの手法とも異なる構造を採用した新しい電圧リファレンスICを発表する予定を明らかにしている。
米Intersil社などが提供する電圧リファレンスICには、フラッシュメモリーと似た構造のフローティングゲートFETを採用するものもある(図7)*8)。Intersil社の製品の場合、デバイス内の電圧をバッファリングして、フローティングゲート上の電荷を放出させる方式をとっている。このような構造にすることで、ESD(静電気放電)保護用ダイオードからのリーク電流をなくすことに成功した。また同社の電圧リファレンスICは、バンドギャップの代わりにフローティングゲートを使用することで、1つのICから複数種の基準電圧を出力できるようになっている。このタイプの電圧リファレンスICは、消費電流が少ないのにもかかわらず、従来型の構成をとる低電力の電圧リファレンスICよりもノイズに関する性能が高い。
Intersil社でIC設計マネジャを務めるBarry Harvey氏は、「優れた電圧リファレンスICを開発するには、製造プロセスと回路設計の両方において巧妙な仕掛けが必要だ」と指摘する。Harvey氏によれば、「そのような仕掛けを完成させたとき、高温においてもフローティングゲートからのリーク電流は、アトアンペア(10–18A)のレベルに抑えられることがわかった」と述べる。
※7…Pease, Bob, "The Design of Band-Gap Reference Circuits: Trials and Tribulations," 1990, http://bit.ly/a12s1P
※8…Rako, Paul, "Analog floating-gate technology comes into its own," EDN, Dec 15, 2009, p.29
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