高周波回路では、コイル/トランスのインダクタンス値、コイルの巻き線比などは、回路の特性に直接影響を及ぼす重要な要素である。また、同調(共振)回路では、コンデンサCとコイルLの積であるLCの値そのものが回路の特性となる。それに対し、低周波回路や一般的なアナログ/デジタル回路におけるコイルは、フィルタの用途に用いられることがほとんどである。すなわち、コイルは、回路の機能/特性に直接的に影響するものではなく、回路の動作の安定化、あるいはEMI(Electro Magnetic Interference)対策など、付随的な意味での利用が主であると言える。
図3に、D級アンプにおける出力LCフィルタ回路の例を示す。このフィルタの役割は、D級アンプのスイッチングノイズを除去することである。D級アンプの方式によっては、ノイズシェーピングによる帯域外周波数成分の除去の役割を果たす場合もある。特定の周波数をピンポイントで除去することを目的としているわけではないため、カットオフ周波数の精度に対する要求は比較的緩いケースがほとんどだ。このLCフィルタのカットオフ周波数fcは、以下の式で求めることができる。
fc=1/2π√(L1+L2)(C1+C2)
コンデンサの場合と同様に、カットオフ周波数fcに対するインダクタンスの誤差の影響は、[インダクタンスの誤差]≒[カットオフ周波数の誤差]と扱ってかまわない。
図3のアプリケーションにおいて、フィルタは、可聴帯域を大きく上回る数百kHz〜1MHz帯という範囲の周波数信号を除去することを目的とする。そのため、カットオフ周波数fcに対する許容誤差のレベルも大きく、少なくとも1%オーダーの誤差が回路に与える影響はほとんどない。
コイルについては、アプリケーションの性質に依存して、ほかの要素が重要になることが多い。例えば、残留抵抗分、許容電力、磁気コアの有無、磁気タイプといった要素である。
設計の過程で計算によって求めた回路定数が、抵抗、コンデンサ、コイルの各値とも、E系列の標準数列で入手できる値と一致しない場合がある。例えば、フィルタ回路のカットオフ周波数fcの計算結果として、コンデンサの値CRが2320pFといった値になった場合について考える。この値はE系列の標準数列には存在しないので、標準数列のうち最も近い値のものを選択することになる。先述したように、抵抗の場合、E96系列が高精度品として一般的に製造/販売されているが、コンデンサで一般的に製造/販売されているのはE24系列までである。E24系列(表1を参照)から選択すると、C1=2200pFかC2=2400pFのいずれかということになる。
計算値CRからの誤差は、C1、C2のそれぞれで以下のようになる。
C1−CR=2200pF−2320pF=−120pF(−5.2%)
C2−CR=2400pF−2320pF=70pF(+3.0%)
誤差の少ないほうを単純に選択すると2400pFということになるが、この時点で設計値に対して+3%の誤差があり、さらにこれに実際の製品での誤差±5%が加わるので、総合的な誤差εは、以下のようになる。
ε=3%±5%=+8%〜−2%
すなわち、10%の誤差幅を持つということである。この誤差を許容できるか否かは、アプリケーションによって異なる。仮に、より高い精度が要求される場合には、部品数が増えてしまうが、複数のコンデンサを並列接続することで解決する方法もある。この例の場合、2200pFのコンデンサと120pFのコンデンサを並列に接続すれば、2320pFという計算値と同じ容量値を実現することができる。
逆に、入手可能なE系列のコンデンサの値を基準にして回路定数を計算するという手法もある。というよりも、この手法のほうがより一般的かもしれない。いずれにせよ、どのような手法を用いることになるかは、設計を行う企業/部門単位、あるいは個人の考え方によって異なる。設計シミュレーションソフトの普及により、計算そのものは簡便になったが、最終的な部品選定までの過程では、精度(誤差)についての検証は重要な作業になる。
今回のまとめとして、以下の2つを回路設計におけるキーポイントとして挙げておく。
これらは、抵抗、コンデンサ、コイルに共通する事柄だが、実際のアプリケーションにおいて製品の選択に必要となる要素(特性、定格など)はそれぞれに異なる。これらについては、次回以降、事例を示しながらより詳細に解説する。
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