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コイルの基本、選択のポイント抵抗/コンデンサ/コイルの基本を学ぶ(4)(1/4 ページ)

コイル(インダクタ)は、簡単に表現すれば線材が巻いてあるだけのものだとも言える。しかし、実際には巻き線の材質や、線径、巻き方、磁性材料、構造によって異なる特徴を持ち、用途に応じたさまざまな製品が用意されている。今回は、まずこのコイルの特性項目とコイルの種類について詳しく説明する。その上で、コイルの代表的な用途と、各用途においてどのようなものを選択すればよいのか、そのポイントを紹介する。

» 2011年02月01日 00時00分 公開
[河合一EDN Japan]

コイルの特性項目

 電子回路におけるコイル(インダクタ)の用途の多くは、信号周波数の帯域外にある比較的高い周波数のノイズに対するフィルタ機能またはデカップリング機能である。本稿では、こうした用途に用いられるコイルや電源用途に用いられるチョークコイルなどを主に扱う。高周波用途に用いるRF同調コイルやRFマッチングコイルなどは含めないことにする。


図11 コイルの等価回路 図11 コイルの等価回路

 コイルの特性上の基本要素はインダクタンス成分である。ただし、コンデンサの場合と同様に、理想インダクタンスjωLに対して、材質、構造の影響による直列等価抵抗Rと分布容量(浮遊容量)Cが加わることになる。このことから、コイルは図11のような等価回路で表現することができる。この図から明らかなように、コイルのインピーダンスにはjωLと1/jωCが含まれ、周波数特性が存在する。また、直列抵抗Rは、純粋なインダクタンス成分とともに、コイルのQ値を決定する要素となる。また、コイルは「逆起電力」という独特の性質を持つことは周知のとおりである。さらに、磁性材料(フェライト、アモルファスなどのコア材料)と組み合わせたものは、その磁性材料の性質(磁束密度、透磁率、B-H曲線)による独特の特性を持つので要注意だ。以下、コイルの各種特性項目について解説する。

  • インダクタンスの値、誤差
図12 インダクタンスの特性グラフの例(提供:TDK) 図12 インダクタンスの特性グラフの例(提供:TDK)

 インダクタンスの公称値(単位はH)とその許容値(誤差)の仕様である。一般的に、インダクタンスの値にはあまり高い精度は要求されない。そのため、E12標準系列の値の製品が用意されていることが多い。また、誤差は5〜20%であるものがほとんどだ。

 磁気コアと組み合わされたコイルの場合、インダクタンスの値はそのコイルに流れる直流(DC)電流と周波数によって変化する。そのため、これらは公称値とは別に、標準特性グラフとしてデータシートに示されている。図12に、TDKの表面実装型製品「NLVシリーズ」のデータシートに記載されている特性例を示しておく。

  • 直流抵抗、Q値

 コイルは固有の抵抗値を持った線材を巻くことによって構成されている。そのため、当然、この線材の抵抗成分による直流抵抗Rを有する。もちろん、コイルの種類によって値は異なるが、数十mΩほどの低抵抗のものから数百Ωにも達する高抵抗のものまで存在する。

 また、一般的にコイルのインダクタンスLとしての性能の良さを表わす要素としては、Q値(Quality Factor)が用いられる。このQ値は、直列抵抗成分をRとすると、以下の式で定義される。

Q=ωL/R

 角周波数ωが周波数パラメータとして存在するので、Q値の仕様には測定周波数条件が付記されるのが一般的である。

  • インピーダンス特性、自己共振周波数
図13 インピーダンス特性の例(提供:TDK) 図13 インピーダンス特性の例(提供:TDK)

 図11で示した等価回路から明らかなように、インダクタでは、純粋にインダクタンスωLで決定されるインピーダンスに加えて、分布容量Cによる影響が及ぶ。分布容量によるインピーダンス1/ωCが並列に存在するものとして総合インピーダンスが決まるのである。

 図13に、TDKの「NLCV32」のデーターシートに記載されている総合インピーダンスの特性グラフを示した。このグラフによって、インピーダンス特性のピーク領域を確認することができる。このピークは、インダクタンスωLと分布容量ωCとの並列共振周波数fo=1/2π√LCによって現われている。このfoは、自己共振周波数として規定されている。注意すべきことは、自己共振周波数から大きく離れた周波数では問題ないが、自己共振周波数に近くなると、インピーダンスが上昇することである。これは、本来のインダクタンスに対して、見かけ上のインダクタンスが大きくなるということを意味する。

  • 定格電流、最大許容電流、飽和電流

 コイルに流すことができる電流量に関する規定である。図12(b)の例でもわかるように、コイルのインダクタンスは直流重畳電流が増えると低下する。ここで、公称インダクタンスLが10%低下する電流値をPとしよう。また、コイルに電流を流すと自己発熱が生じるが、この発熱によって規定の温度(例えば20℃など)となる電流値をTとする。定格電流は、これらの電流値PとTのうちいずれか小さいほうで規定されるのが一般的だ。また、メーカーによっては最大許容電流と呼称する場合もある。その値としては、一般品では数百mA、電力用途では数十Aのものまで存在する。さらに、大電力用途では、特定条件(インダクタンスが半分になるなど)での電流を飽和電流として規定しているものもある。いずれにせよ、電流値の規定条件については必ず確認しなければならない。

  • その他の特性項目

 コイルは、受動部品の中でもユニークな特性が規定されているものである。半面、抵抗やコンデンサで必ず規定されている定格電圧と動作温度範囲が規定されていないものも多い。あるいは、個々の製品のデータシートには記載されていない事柄も多々存在する。

 電圧について規定されていない大きな理由は、コイルは高い電位差のある個所には使用しないことだ(直流的には数Ωの抵抗と同じなので、大電流が流れてしまう)。温度に関しては、抵抗、コンデンサに比べて特性変化が少ないことと、コイルを単純に線材として見れば、その使用可能な温度範囲は広いことによる。定格電圧、温度範囲とも規定されているものもあるが、これらの特性/仕様は信頼性試験の条件や絶対最大定格として規定されている場合が多い。

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