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モジュールの機能/発振器の応用回路例「水晶発振器」活用の手引き(4)

前回までは、単純にクロック発振機能のみを有する水晶発振器について解説してきた。今回は、まず、より応用的な例として、水晶発振モジュールについて説明する。具体的には、低消費電力モードやクロックのオン/オフ機能などについて、実使用にあたって知っておくべき事柄をまとめる。最後に、水晶発振器を利用した応用回路例を2つ示し、本連載の締めくくりとする。

» 2011年03月01日 00時00分 公開
[河合一,EDN Japan]

水晶発振モジュールの機能

 今回は、主に水晶発振モジュールを扱う。ここで言う水晶発振モジュールとは、本連載の第1回目に定義したように、細かい制御機能を付加したりすることによって、比較的複雑な構成を持つ水晶発振器のことである。

 図13に、水晶発振モジュールの代表的な機能を示した。この図には、表現は異なるものの、実態としては同様の機能も含まれているので注意されたい。

図13 水晶発振モジュールの代表的な機能 図13 水晶発振モジュールの代表的な機能

 また、図に示した機能のうち、周波数選択機能を有するものはプログラマブル品、周波数可変機能を有するものはVCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)という別のカテゴリの製品として分類することもできる(本連載の第2回目を参照されたい)。また、特に温度特性を保証したものは一般にTCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)として分類される。それ以外の機能も、一般的なSPXO(Simple Packaged Crystal Oscillator)に標準機能として付加されているケースがある。

 本稿では、水晶発振器に付加されている比較的シンプルな制御機能について解説する。なお、水晶発振器の基本動作は、電源を供給するとクロックが出力されるということのみである。そのため、電源の供給とクロックの出力は制御機能においても密接に関係している。以下では、電源の制御という観点、クロック出力の制御という観点から、順に説明することにする。

電源の制御

図14 制御機能の概念図 図14 制御機能の概念図

 図14は、水晶発振モジュールの制御機能の概念図である。実際の製品においては、ここで示したシンプルな構成とは異なるケースもあるが、理解の容易さを優先した図としている。

 水晶発振モジュールの電源電圧と電源電流は仕様で規定されている。一般には、クロック発振周波数が高くなるに従って、消費電流も増加する傾向がある。また、電源電流は、無負荷時の条件で規定されていることがほとんどだ。

 一般的なCMOS ICの低消費電力化が進んでいる中にあって、水晶発振モジュールの消費電力も無視できないものとなっている。現状では、電源電流が20mA〜30mAと比較的多いものから数mAのものまで製品によってそのレベルは広範囲である。いずれにせよ、実際のアプリケーションシステムでは、待機動作にある場合などを含めた総合的な消費電力を削減することを目的として、水晶発振モジュールの消費電流をセーブする機能が求められている。この種の機能は、スタンバイ機能、スリープ機能、ディセーブル機能といった名称で設けられている。いずれの場合もクロック出力は停止するのだが、ここでは電源電流を削減する機能という観点から説明を行う。この電源電流のセーブ機能を大別すると、以下の2つに分けられる。

  • スタンバイ機能/スリープ機能:電源電流を1μA未満〜数十μAにまで削減する動作モード
  • ディセーブル機能:電源電流を通常の値に対して20%前後削減する(例えば、通常10mAに対して8mA程度まで)動作モード

 スタンバイ機能/スリープ機能では、水晶発振モジュール内の水晶発振回路や出力回路は通電した状態にあるが、一切の能動的動作は停止させる(当然、クロック発振も停止する)。図14で言えば、制御回路により水晶発振回路と出力回路の動作をオフの状態とする(CNT1、CNT2ともにオフの制御信号を送る)。これにより、内部のロジック素子にDCバイアスがかかった状態となり、そのときの消費電流が水晶発振モジュールとしての電源電流となる。

 一方のディセーブル機能は、クロック出力を止めることにより、電源電流を削減するというものである。水晶発振モジュール内の水晶発振回路は通常どおりに動作したままで、次段のブロックとなる出力回路の動作のみをオン/オフ制御する。出力回路がオフ(ディセーブル)の際に、電源電流が削減される仕組みだ。図14で言えば、CNT1はオン、CNT2はオフの制御信号を送っている状態となる。ただ、このモードの場合、水晶発振モジュールの電源電流のうち高い比率を占める水晶発振回路によって消費電流が決定されることになる。そのため、消費電流の削減効果は、通常動作の値に対して20%程度にとどまる。

クロック出力の制御

 クロック出力の観点から見た場合、水晶発振モジュールの制御機能によって生じる状態は、次のように分類できる。

  • 水晶発振モジュールがスタンバイモードにあり、クロックは出力されない
  • 水晶発振モジュールのクロック出力回路が非動作の状態(ディセーブル)にあり、クロックは出力されない

 これらの制御は電源制御と兼用の形で行われるが、使用者側にとっての意図は異なるケースがある。すなわち、クロックを停止させることが目的なのか、消費電流を削減することが目的なのかという違いがあり得るということだ。

 負荷側から見たクロック出力の状態としては、下記のいずれかに区別される。

  • ハイ/ローいずれかのレベルの静止状態
  • トライステート(ハイインピーダンス)出力の状態

 これは、内部ロジック回路の構成やその制御方法によって現れる違いである。例えば、クロック出力部にトライステート機能付きのゲート/バッファ/インバータを用いているか否かによって状態が異なる。

 クロック出力を停止した際の状態がハイ/ローいずれかのレベルに固定の場合には、負荷の条件/状態によっては負荷電流を消費することとなる。ちなみに、システムにおいて、このハイ/ローのロジックレベルを検出することでクロックの有無をモニターするという仕組みを設けることも可能である。

 クロック出力停止時の出力がトライステート状態の場合、負荷の条件/状態には関係なく負荷電流は流れない。すなわち、内部デバイスの静的動作における電源電流のみが消費される。

クロック出力の遷移に注意

 実際のアプリケーションでクロックのオン/オフ機能を利用する際の注意点としては、オン/オフ制御によって生じるクロック出力の遷移(トランジェント)動作が挙げられる。

 スタンバイ動作時には、水晶発振回路、出力回路ともに非動作の状態にある。そして、スタンバイの解除により、この状態から通常動作に移行するという動きになる。このため、通常の水晶発振器の起動時間と同等の遅延が発生することになる。すなわち、クロックが安定して出力されるまでの遷移動作に、数ms〜10ms程度の時間を要するということだ。

 一方、ディセーブル制御の場合、水晶発振回路は通常の発振動作のままである。単に、出力回路を制御してクロックをオン/オフしているだけなので、その遷移には、一般的なロジック素子のスイッチング時間(数ns〜数10ns)程度の遅延しか生じない。

応用回路例(その1)――多チャンネル出力の制御

図15 多チャンネル出力の制御例 図15 多チャンネル出力の制御例

 使用する水晶発振モジュールはクロックのオン/オフ制御機能を有しているが、多チャンネルのクロック出力を必要とし、複数の系統での制御を要するというケースがある。このような場合には、水晶発振モジュールの外部に制御回路が必要となる。例えば、図15のような回路を用いることになるであろう。

 これは、水晶発振器と外部ロジックデバイスを用い、多チャンネル出力に対応できるようにした制御回路の例である。第1系列、第2系列の2つの系統を用意し、各系列当たり4ラインのクロック出力のオン/オフ制御を行うというものだ。外部回路として用いるのは、「74HC368」のようなトライステート出力を備えたドライバIC(この例の場合、8入力、8出力のものを使用する)である。このとき、使用するドライバICは、水晶発振器の出力レベルに対応したものを選ばなければならない。ドライバICの出力はトライステート出力である。すなわち、出力オフ時にはハイインピーダンスの状態となるので、余分な負荷電流は消費しない。

 なお、水晶発振器から見た負荷は、ロジックゲート×8個分の入力容量となる。この入力容量が、使用する水晶発振器の仕様を満たしているかどうかを確認しなければならない。

応用回路例(その2)――オーディオ用D-A変換回路の構成

図16 オーディオ用D-Aコンバータ回路の構成例 図16 オーディオ用D-Aコンバータ回路の構成例

 図16に、水晶発振モジュールの利用例として、デジタルオーディオ機器におけるD-A変換回路のブロック図を示した。

 図16(a)は一般的な構成のD-A変換回路である。S/PDIFに対応したデジタルオーディオインターフェースへの入力から、S/PDIFレシーバICによってPCM信号とシステムクロックSCLKを生成し、それらをオーディオ用のD-Aコンバータに伝送することでオーディオ出力を得る。ここで問題となるのは、システムクロックのジッターである。S/PDIFレシーバICで生成したシステムクロックの特性は、レシーバIC内部のPLLの性能に依存する(製品によって異なる)。標準的には、200ps程度のジッターを有する(立ち上がりエッジで見たピリオドジッターのrms値)。このシステムクロックのジッターは、D-A変換における変換精度(オーディオ特性、音質)に影響を及ぼす。すなわち、オーディオ用D-Aコンバータ本来の特性によって実現できるはずの変換精度が得られなくなってしまうのだ。

 一方、図16(b)は、このジッターの影響を解決するために、中/高級デジタルオーディオ機器で実際に用いられている方法である。この手法は、SRC(Sample Rate Converter:非同期のサンプリングレート変換機能を有するデバイス)を利用し、オーディオ用D-Aコンバータに供給するクロック源として水晶発振器/水晶発振モジュールを使用するというものだ。

 一般的な水晶発振モジュール製品では、ジッターの値はデータシートには記載されていない。ただ、実力値では20ps〜30ps、最大でも50ps程度であり、S/PDIFレシーバICで生成する場合に比べて、極めて低ジッターのクロックを供給することができる。その結果、オーディオ特性と音質の劣化を防止することが可能になる。なお、低ジッターであることを特徴とするクロックジェネレータ/モジュレータ製品の中には、1ps未満の値を実現しているものもある。

水晶発振器についてのまとめ

 ここまで、本連載では水晶発振器をテーマに、その基本となる水晶振動子と発振回路の基本的な技術ポイント、水晶発振器の特性項目とその定義、水晶発振器の応用例などについて4回にわたって解説してきた。民生用、産業用といった分野を問わず、標準的な水晶発振器についてのみの解説となったが、水晶発振器においても、技術の進歩と市場からの要求により、新技術を取り入れた新たな製品が登場してきている。そうした製品群についての解説は別の機会に譲りたい。

 最後に、水晶発振器についての重要なポイントをまとめると、以下のようになる。

  • 水晶振動子の固有の振動周波数と水晶発振器での発振周波数には差が生じる。水晶発振回路の発振周波数は、負荷容量に依存して変化する
  • 水晶発振回路では、負性抵抗、発振エネルギー、負荷容量など、安定に動作するための諸条件を満足していなければならない
  • 水晶発振回路の温度特性は、水晶振動子のカット方法でほぼ決定される。一般的にはATカットが用いられる
  • 水晶発振器(SPXO)を使用すれば、容易かつ確実にクロック出力が得られる。非常に便利なクロックソース製品だと言える
  • 実際に製品を使用する上では、水晶発振器の基本仕様と性能を確実に理解することが重要になる。水晶発振器の主要な特性項目としては、周波数偏差、温度特性、電源条件、負荷条件が挙げられる。特に負荷条件は、実装時におけるクロック出力の信号品質(波形のなまりなど)に影響を与える
  • 水晶発振器を実際に使用するにあたっては、電源デカップリング、実装パターンレイアウト、クロック出力パターンについて、本連載の第3回目に示した推奨例の内容を確実に実行する
  • 電源(消費電力)の制御とクロック出力の制御の機能においては、制御時の動作を理解した上で、制御の目的に応じた機能を適切に利用する

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