EEGのほかにも、微弱な信号を頭の表面で測定する方法がある。その1つが、眼球運動を利用したEOG(Electro-Oculogram:眼球電位図)だ。眼の網膜側(眼球の後ろ側)にはニューロンが多数存在しているため、角膜側(眼球の前側)よりも負に帯電している。眼球が動くと眼球の周囲の電界も変化する。周囲の電界は顔の左右および目の上下の電極によって測定できる。耳の後部の電極が基準電圧となる。
ベルギーのワーテルロー研究所に在籍する米National Instruments(以下、NI)社の技術者グループは、同社の製品を用いるEOGプロジェクトを立ち上げた。同プロジェクトでは、任天堂のゲーム「スーパーマリオ」の操作をEOG機器で実現するという実験が進められている。この実験では、頭部のような雑音の多い環境下で微弱な差動信号を取り出すことが必要になるが、これは、EOG機器の設計課題の1つでもある*6)。システムは、NI社のシングルボードコンピュータである「RIO(Rapid Input/Output)」がEOG機器の信号処理を担い、専用のドーターボードが信号の取得と増幅、フィルタリング、デジタル化を担うという構成になっている(図1)。
EOG機器には、電極で測定された両電位の信号が入力される。これらの信号は、無線通信信号や60Hzの交流主電源における雑音といった周囲の雑音よりも弱い。幸い、すべての電極は同じ雑音を拾うため、雑音が共通の信号になる。電極間の差分を増幅し、共通の雑音信号を除去すればEOGの信号が取り出せることになる。計装アンプとしては、低雑音かつ同相信号除去に優れているという理由で、米Analog Devices社の「AD8221」が使用されている。
電極に使用される金属が人間の皮膚などの電解質に触れると、電位差、すなわち半電池電位が生じる。計装アンプはEOG信号と半電池電位の両方を増幅する。アンプの利得が高すぎると、半電池電位によってEOG信号が判別できなくなるため、利得は10以下に抑えてある。利得が10あればEOG信号と雑音を十分に区別できる。次段には、半電池電位を除去するために、カットオフ周波数が0.1Hzに設定されたハイパスフィルタ(高域通過フィルタ)が配置されている。半電池電位を除去したら、雑音を加えないように注意しながらさらに信号を増幅することができる。このシステムでは、ハイパスフィルタの後段に低雑音のアンプを2段階で使用して、雑音のない状態に保ちながら増幅を行っている。最終段には、カットオフ周波数を50Hzに設定したローパスフィルタ(低域通過フィルタ)を配置して、高周波雑音を除去している。その後、A-DコンバータによりA-D変換を行う。
電気的絶縁について言えば、9.0Vの電池から電力が供給されるEOG機器であれば危険を伴うことはない。一方、テレビゲームのコントローラやテレビ、 RIOはすべて壁面コンセントからの120Vの電圧を電源として使用する。そのため、もし変圧器がショートしていたら、EOG機器のユーザーは顔面に 120Vの電気的衝撃を受けることになる。このような問題を引き起こさないようにするために、図1の回路では、A-Dコンバータとして、絶縁型の「AD7401」を使用している。誘電ギャップにまたがって磁気的に信号を結合する方式により、EOGとRIOの間に電気的接続がないようにするものだ。 AD7401は、壁面コンセントの120Vの電圧に半永久的に耐えられるし、3000V以上の電圧に対しても1分程度であれば耐えることができる。
※6…"Play NES with your Eyes," Waterloo Labs, Episode 04, Aug 2, 2010
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