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» 2011年05月01日 00時04分 公開

車載電池システムを支える監視IC高い信頼性を実現するための要素技術の数々(2/3 ページ)

[Paul Rako,EDN]

電池監視ICを用いた測定手法

 上述したように、自動車やUPSのメーカーは、電池スタックの各セルの状態を正確に測定できるようにしなければならない。米Analog Devices(以下、ADI)社でハイブリッド/電気自動車セグメントのマーケティングディレクタを務めるPaul Maher氏は、「自動車のユーザーは、セルが故障したからといって車を停めたいとは思わない。しかし、現実には、電池パックが過熱した場合には車を停めざるを得ないだろう」と語る。さらにMaher氏は「ノート型パソコンの電池パックであれば2年もてば十分かもしれない。しかし、車載電池パックには10 年以上の寿命が要求される」と続ける。その意味でも、車載電池に対するケアは重要である。

 電池スタックでは、数mVの電圧差が大量の電荷量に相当する。そのため、電圧の測定は精密でなければならない。そして、その測定には後述するコモンモード電圧の問題が伴うことになる。数百Vにも達するコモンモード電圧が存在する中で、個々のセル電圧を精密に測定する必要があるのだ。

 また、この測定は、単に直流電圧を測定すればよいという性質のものではない。電池スタックの電圧は、モーターのインバータ回路におけるチョッピング動作の影響により、kHzオーダーの速度で変化する。加えて、電池スタックの高い電圧は危険なので、測定系を電気的に絶縁する必要がある。さらに、測定に用いる電池監視ICは電池の電力を無駄に消費するようなものであってはならない。測定自体の難易度が高いことに加えて、自動車内やデータセンター内のさまざまな場所にセル電圧の測定結果を通知する機能も必要になる。

■精度の確保

 電池スタックの監視回路で最初に直面するのは、精度の問題である。最近のLiイオン電池は平坦な放電曲線を有している。米Texas Instruments(以下、TI)社でパワーマーケティングマネジャを務めるMatthew Borne氏は「5mVの測定誤差は、セルの放電予測値における10%の誤差に相当する」と述べている。電池の過放電は、電池の破壊を引き起こす。従って、その状態が起きる前に、放電を停止させなければならない。測定精度が高いほど、電池が破壊に至る危険性は小さくなる。4V出力の電池において8mVの測定精度が得られるとすると、その精度は0.2%である。ただし、0.2%の精度を得るには、時間/温度による変動も考慮して、基準電圧には0.1%の精度が求められることになる*2)

■コモンモード電圧への対策

図2 セル電圧の測定回路 図2 セル電圧の測定回路 コモンモード電圧の問題を解決した回路の例。この回路では、小さな絶縁トランスを介してセル電圧とダイオード電圧の和を伝達する。
図3 デイジーチェーン接続での使用例 図3 デイジーチェーン接続での使用例 電池監視ICのほとんどは、デイジーチェーン接続で使用できるように設計されている。この使い方であれば、数十個のセルの測定であっても、数個のICを使用するだけで済む(提供:TI社)。

 十分な精度が実現できたとしても、また別の問題に突き当たる。電池スタックは、数十個ものセルが直列に接続されたものである。その電池スタック中に存在する個々のセルの電圧を測定する方法が問題になるのだ。単純な方法としては、抵抗分圧回路を使う手法が考えられるが、それには高精度の抵抗が必要になる。薄膜抵抗でも十分な精度は得られないし、温度の変化に対して精密に補正をかけることも難しい(別掲記事『コモンモード電圧の問題』を参照)。

 キャパシタをセル電圧まで充電した後、スイッチを切り替えてシャーシの基準電位に接続するフライングキャパシタという方式がある。これを用いれば、コモンモード電圧の問題を回避して個々のセル電圧を測定することが可能である。ただし、この方法にも問題がある。例えば、キャパシタが、異なる電位のセル間で電荷を不均等に転送し始めるということが起きる。また、米Maxim Integrated Products社の自動車/産業用バッテリ製品部門ビジネスマネジャを務めるStephan LaJeunesse氏によれば、「この方法を用いるには、高い電圧に対応可能なスイッチが必要となる。そのようなスイッチは、それ自身の損失が大きく、回路の効率を低下させる」という。

 米Linear Technology社のスタッフサイエンティストであるJim Williams氏は、小型で低価格のトランスを用いて各セルの電圧を測定する斬新な回路を開発した(図2*3)。この回路は、コモンモード電圧の問題を回避してうまく動作する。ただし、トランスのコストが追加されることと機械的振動に弱いことが欠点となる。

■デイジーチェーン方式

 多くの電池監視ICのメーカーは、コモンモード電圧の問題を、監視ICをデイジーチェーン接続する方法によって解決している。この方法では、測定したアナログ電圧値をデジタルデータに変換した後、そのデジタルデータをデイジーチェーン接続されたほかのチップに伝達する(図3)。この方法により、抵抗分圧回路は不要になる。

 また、電池監視ICは、システムで必要となるICの数を最少限に抑えるために、耐圧が高く、エラー保護の対策が施されたマルチプレクサを搭載している。これにより、1つの電池監視ICによって4個から12個のセルの電圧を正確に測定することができる。その上で、デイジーチェーン内の次の電池監視ICに、シリアルバスを介して測定結果を伝達できるようにしている。

■絶縁手法

図4 電池監視ICの回路ブロック 図4 電池監視ICの回路ブロック ADI社のICは、電源電圧の供給源として、監視している蓄電デバイスはもちろん、外部電源も使用することができる。このICの場合、温度などの測定用に外部入力端子を6本備えている。

 デイジーチェーン方式では、アイソレータを多数用いる必要はなく1つで済む。10年くらい前までは、絶縁境界を越えてアナログ電圧値を伝達しようとするケースが多かった。それに対し、デイジーチェーンを用いた監視回路のアーキテクチャは、測定したアナログ値をデジタルデータに変換して処理するという最近のトレンドに即している。そして、絶縁境界を越えてデジタルデータを伝達する方法はいくつも存在する*4)。フォトカプラ、容量性アイソレータ、トランスを用いたアイソレータ、RFアイソレータ、あるいはGMR(Giant Magnetoresistive)を用いたアイソレータなどを用いることができる。

 ちなみに、絶縁境界を越えてアナログ電圧を伝達する方法としては、米Avago Technologies社の製品のようにΔΣ変調方式を利用するものもある。

■消費電力

 正確な値が得られる測定法を確立し、コモンモード電圧の問題を解決したら、続いては回路の消費電力に関する条件を満たすことが要求される。電池監視ICには、電池スタックから給電することができる。ただし、それでは電池監視ICが消費する電力によって、電池が消耗することになる。もう1つ重要なことは、あるセルグループが、隣接したほかのセルグループより多くの電力を消費して充電状態のバランスを崩すことがないように、各ICの消費電力が同じでなければならないということだ。

 ADI社の電池監視ICのように、電池スタックとは別の外部電源に接続できるタイプの製品もある(図4)。このようにすれば、電池監視回路によって電池が消耗しなくて済む。

■通信機能

 測定が終わったら、通信リンクを介して結果のデータを送信する必要がある。あるICメーカーは、SPI(Serial Peripheral Interface)のような簡単なローカルシリアルプロトコルのデータをCAN(Controller Area Network)のような高レベルのプロトコルのデータに変換して使用している。自動車内でのCANによる通信の信頼性は、10年以上の実績によってすでに確立されていると言ってよい。

コモンモード電圧の問題

 大きな電圧に重畳している小さな電圧を計測しようとする場合、常にコモンモード電圧の問題に遭遇することになる。車載用途の電池スタックでは、トータルで 400Vのスタック電圧中に存在する4Vのセル電圧を測定しなければならないといった状況になる。直感的な対処法としては、抵抗分圧回路を用いて400V の電圧を4Vといった小さな電圧に分圧して測定する方法が思いつくのではないだろうか。

 まず、A-Dコンバータの精度について考えてみよう。4Vのセルを扱う場合、4mVの精度で測定が必要ならば、10ビットのA-Dコンバータを使用すればよいことになる。ただし、誤差についての考慮も必要なので、実際には12ビットのA-Dコンバータで測定するのが妥当である。事実、多くの電池監視IC は、12ビットでの測定が行えるように設計されている。

 ここで、抵抗分圧回路を用いる方法の場合に問題になるのは、コモンモード電圧とともに、測定の対象とする電圧も小さくなってしまうことである。つまり、この例で言えば、測定の対象とする電圧が40μVという微小な電圧に変換されることになる。誤差に対する余裕度を2ビット確保するとしたならば、LSB(最小有効ビット)が10μVに相当する高い分解能を実現しなければならなくなる。

 しかし、抵抗分圧回路を使用する方法における最大の問題は、測定回路をいかに高精度化するのかということではない。むしろ、分圧回路に用いる抵抗の高精度化のほうが難しい。例として、400Vから4Vを得る抵抗分圧回路を考える。使用するのは、4Ωの抵抗と396Ωの抵抗であると仮定しよう。ここで 396Ωの抵抗の値が1%増えると、400Ω(399.96Ω)となる。従って、抵抗列全体の抵抗値は404Ωとなる。この条件で400Vの電圧がかかると、測定の対象となる個所での電圧は4Vではなく3.96Vとなり、40mVの誤差が生じる。

 上述したように、LSBが10μVに相当するという条件では、1つの抵抗での1%の誤差が測定結果に4000倍以上の誤差をもたらすことになる。このような状況はもちろん許容できない。逆に言えば、抵抗の精度は0.00025%以内に抑えなければならないことになる。このような許容誤差の仕様は、低コスト化を図らなければならないという条件の下では現実的なものではない。加えて、温度の変化によって増減する抵抗値に合わせて補正を行う必要もある。

 このような問題があるため、実際には抵抗分圧回路を用いる方法は使用されない。本編でも紹介しているように、ほとんどのアナログICメーカーが採用しているのは、セルの電圧をA-Dコンバータでデジタルデータに変換した後、そのデジタルデータを絶縁障壁を越えて転送するという方法である。



脚注

※2…『電圧リファレンスICを正しく選ぶ』(Paul Rako、EDN Japan 2011年2月号、p.26)

※3…Williams, Jim, "Novel measurement circuit eases battery-stack-cell design," EDN, Jan 10, 2008, p.47

※4…『「アイソレータ」を活用せよ!』(Paul Rako、EDN Japan 2010年1月号、p.22)


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