ロームはSiCだけを用いたパワーモジュールを、サンケン電子は、GaNとSiCを組み合せた回路をデモした。IRジャパンはGaNを用いたD級アンプのデモを、富士電機はSiCとSiのハイブリッドモジュールを見せた。
SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)をベースとする次世代パワーデバイスへの注目が集まっている。しかし、量産製品への搭載事例は、依然として多いとは言えない状況にある。「TECHNO-FRONTIER 2011」(2011年7月20日〜22日、東京ビッグサイト)では、これら次世代パワーデバイスの開発に注力している企業が、量産機器に搭載することを強く意識した製品を展示した。
ロームは、同社が2010年から量産を開始しているSiC-DMOSFETとSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)を2組搭載するSiCパワーモジュールを公開した(図1)。耐圧は1200V、電流容量は100Aである。同社は、高温動作が可能なSiCデバイスの特性を生かすことができる実装技術やパッケージ技術の開発に取り組んでおり、展示会での展示も高温動作に関連するものが多かった。これに対して、今回展示したSiCパワーモジュールは、Si(シリコン)ベースのIGBTを搭載するパワーモジュールと同じ実装技術やパッケージ技術が用いられている。実際に、最大接合温度は150℃となっている。この値は、一般的なSiパワーモジュールと同じだ。
このSiCパワーモジュールの特徴は、Siパワーモジュールよりも高いスイッチング速度を実現できるところにある。Si-IGBTを搭載するパワーモジュールの場合、スイッチング速度は10kHz〜20kHzまでしか出せない。一方、SiCパワーモジュールの場合、10倍に相当する100kHz〜200kHzでスイッチングさせることが可能だ。ロームは、「次世代パワーデバイスを機器に搭載する場合に得られるメリットは色々あるが、スイッチング速度の向上に焦点をあてた製品も用意することで、さまざまな需要を取り込んでいきたい」としている。
同様に、スイッチング速度の向上をアピールしたのがサンケン電気である。同社は、耐圧300V/電流容量50AのGaN-FETとSiC-SBDで構成した回路のスイッチング動作を5MHzで行うデモンストレーションを行った(図2)。
「同じ耐圧と電流容量を持つSi-IGBTとSiベースのファストリカバリダイオードでは、最大でも1MHzの速度でしかスイッチング動作を行えなかった」(サンケン電気)という。なお、同社は、2012年度から、GaN-FETの量産を開始する計画である。一方、SiC-SBDの量産時期は未定としている。
インターナショナル・レクティファイアー・ジャパン(IRジャパン)も、GaNデバイスを用いたスイッチング速度の向上に関する応用例についての展示を行った。ただし、ロームやサンケン電気と異なるのは、D級オーディオシステムに適用していた点である(図3)。
今回、IRジャパンがD級オーディオシステムのデモに用いたGaNデバイスは、耐圧が150VのGaN-FETである。通常のSiベースのMOSFETに替えてGaN-FETを用いることにより、768kHzという高い変調周波数を実現できる。また、音質の向上や歪(ひずみ)率の低減、電力損失の低減、オーディオシステムの基板面積の削減といった効果も得られるという。
富士電機は、トランジスタにSi-IGBTを、ダイオードにSiC-SBDを用いた「Si-SiCハイブリッド・パワーモジュール」を披露した(図4)。2011年末までに量産出荷を開始する予定である。
SiC-SBDを採用したことにより、Siベースのダイオードを用いた同社パワーモジュールの現行品と比べて、動作時の損失を低減できることを特徴とする。SiC-SBDは、産業技術総合研究所の試作ラインで製造したものを用いている。
また、先に述べた現行品と同じパッケージを採用しているので、置き換えを容易に行うことができる。展示した製品の仕様は、耐圧が600Vで、電流容量が100A。富士電機は、「耐圧が1200Vの製品も開発中である」としている。
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