TIは、ARMにとって最も付き合いの長いライセンシー企業の1つである。TIが開発してきたSoCといえば、ARMのプロセッサコアとImagination TechnologiesのグラフィックスプロセッサIP「PowerVR」を組み合わせたものが定番だった。それらの中には、自社で開発した専用の機能ブロックや汎用のDSPで性能を補ったものもある。TIはこれまで、ARMがプロセッサコアの新製品を発表するたびに、いち早く採用してきた。しかし、Cortex-A9世代のSoC、すなわち「OMAP4」の開発に関しては後れを取り、競合するNVIDIAなどに先を譲ったことを認めている。最近のTIの発表において、ARMコアの採用に関するものが相次いでいることから判断すると、同社は同じ過ちを繰り返したくないようだ。
例えば、OMAP4の採用状況を見てみよう。TIは、「MWC(Mobile World Cogress) 2011」で、LG Electornicsの「Optimus 3D」やResearch in Motionの最初のタブレット端末である「BlackBerry PlayBook」などに向けて、OMAP4ファミリの最初の製品である「OMAP4430」を量産出荷中であることを明らかにした。OMAP4430もNVIDIAの「Tegra 2」と同様に、1GHzで動作する2個のCortex-A9コアを搭載している。これら2個のコアが、1MバイトのL2キャッシュを共有することも同じである。その一方で、Tegra 2とは異なる機能も備えている。OMAP4430のグラフィックスプロセッサは、約300MHzで動作する「PowerVR SGX 540」である。この動作速度は、PowerVR SGX 540を搭載する競合他社のSoCより約50%高速である。また、メインメモリは、400MHzで動作する2本の32ビットLP(Low Power)DDR(Double Data Rate)2 SDRAMとなっている。2個のCortex-A9は、MPE(メディア処理エンジン)の形で、「NEON」のSIMD(Single Instruction Multiple Data)命令セットによる浮動小数点を用いたベクトル演算に対応している。
さらにTIは2010年12月、OMAP4430を強化した「OMAP4440」を発表した。OMAP4430と同様に、OMAP4440も45nmプロセスで製造されている。OMAP4440は、2011年下半期に量産を開始する予定だ。同社によると、「Cortex-A9のクロック速度を1.5GHzに高めたほか、OMAP4430と比べて総合的なグラフィックス性能を25%向上させた」という。加えて、1080p(1920×1080画素のプログレッシブ映像)かつ60フレーム/秒の映像をデコードする機能や、2個までの1200万画素カメラをサポートする他、HDMI(High Definition Multimedia Interface)の最新バージョンであるHDMI 1.4に準拠した映像出力、裸眼3D映像の表示機能などを備えている。
TIは、MWC 2011において、OMAP4に搭載する将来的な機能を「Me-D experiences」として紹介している。OMAP4440に搭載された裸眼3D表示機能もこの1つであり、ジェスチャ入力が可能なユーザーインタフェースや、携帯機器に搭載可能なDLP(Digital Light Processing)方式のプロジェクタ機能「DLP Pico」などもあった挙。他にも、スマートフォンやタブレット端末上で、タッチペンやスタイラスを用いてスムーズに文字や絵を描けるようにする技術「EPOS」も披露した。EPOSは、画面上に超音波を送る送信機と、その超音波を受信する3個のマイクロフォンを用いる。OMAP4は、ペンやスタイラスが画面をなぞる時に変化する超音波の状態をマイクロフォンを介して検知し、ペンやスタイラスの位置を正確に決定できる。いわゆる超音波(表面弾性波)方式のタッチパネルである。
Cortex-A9で後れを取ったTIだが、ARMの最新アプリケーションプロセッサコアである「Cortex-A15」への対応については素早い動きを見せた。TIは、Cortex-A15が正式に発表される1カ月前の2010年8月に採用方針を明らかにしたのだ。このため、同社がMWC 2011の1週間前に、業界で初めてCortex-A15搭載製品の計画を発表したことも意外なことではなかった。ただし、半導体業界ではCortex-A15の詳細について、メモリの拡張アドレッシング機能とハードウェアの仮想化をサポートしていること以外、まだほとんど知られていない(図4)。
TIが発表した「OMAP5」は、最初の製品においてCortex-A15をデュアルコアで搭載しており、動作周波数は最高2GHzとなる予定だ。2個のコアが共有するL2キャッシュの容量は、OMAP4の2倍となる2Mバイトに増加している。グラフィックスプロセッサには、Imagination Technologiesの「PowerVR SGX 544」を採用するが、そのコア数や動作周波数は明らかにしていない。なお、製造プロセスは28nmとなっている。
OMAP5は、映像や画像の処理、デジタル信号処理、ディスプレイ処理、セキュリティ処理に対して、それぞれ専用の機能ブロックを持っている。さらに、ARMのマイコン向けプロセッサコア「Cortex-M4」を2個用いてリアルタイム処理に対応する。メインメモリのインタフェースは、OMAP4と同様に、32ビット/2チャネルで構成され、少なくとも2つのメモリ方式をサポートする予定だ。現在、OMAP5では、スマートフォン向けの「OMAP5430」とタブレット端末向けの「OMAP5432」という2つの品種が用意されている。OMAP5430は、外形寸法が14mm角のPOP(Package on Package)モジュールで提供され、メモリはLPDDR2をサポートする。一方、OMAP 5432は、外形寸法が17mm角のBGAパッケージで提供され、LPDDR2よりも高速のDDR3/DDR3L SDRAMをサポートしている。
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