FPGAベンダーのAlteraは2011年10月、同社の低コストFPGAファミリ「Cyclone IV」に向けて最適化したビデオ解析用IPコアを発売した。Cyclone IVにこのコアを実装すれば、1080p/30fps(フレーム/秒)のフルHD(高品位)映像コンテンツをリアルタイムに処理し、映像中の事象を検知することが可能だという。交通監視システムなどに組み込むIP(Internet Protocol)カメラに向ける。例えば、交通の状況をIPカメラで撮影しながらリアルタイムで解析し、事故につながりそうな車両の動きや他車両との位置関係、交通規則に違反するレーン変更や信号無視などを検知することが可能だ。他に、商業施設などのセキュリティ監視システムにも使える。
日本法人である日本アルテラによると、「監視カメラ市場では、同軸インタフェースを使うSD(標準)画質のアナログカメラから、イーサネットポートを備えたHD画質のIPカメラへの移行が進んでいる。IPカメラの全世界の出荷台数は2010年から2014年の間に10倍に拡大するとみられている上、IPカメラ市場におけるビデオ監視向け製品の比率もこの間に10%から45%へと高まる見込みだ。高性能ビデオ解析に対応できる半導体ソリューションの需要は大きい」という。そこで同社はIPコアとFPGAを組み合わせた今回のソリューションで、これまでビデオ解析の用途で主に使われてきたDSPを置き換えたいともくろむ。「1080p/30fpsのフルHD映像コンテンツをリアルタイム処理できるのは、今回のIPとFPGAを組み合わせたソリューションが業界初だ。DSPでは、ここまでの性能は得られなかった」(同社)と主張する。また、FPGAを利用する手法では、ビデオ解析用IPコアの前段や後段に色調補正などのユーザー任意の画像処理機能をハードウェアとして1チップに組み込めるというメリットもあると説明する。
Alteraが今回発売したIPコア自体は、民生用や軍事用のビデオ解析用IPコアを手掛ける米国のEutecus(ユーテキスと発音する)が開発し、独自に製品化していた「MVE(Multi-Core Video Analytics Engine)」だ。国内では日本アルテラが、このIPコアとCyclone IV、さらに解析ルールの設定用ツールをまとめてユーザーに提供する。ユーザーは日本アルテラからこれら一式を購入する形になるので、Eutecusと個別にIPコアのライセンス契約などを結ぶ必要は無い。「ユーザーがASSP(特定用途向け汎用チップ)のような形態で利用できるように工夫した。開発(NRE:Non-Reoccurring Engineering)コストやライセンス料は不要だ」(日本アルテラ)。ユーザーは、このIPコアを実装するFPGAの個数に応じたロイヤルティーを負担すればよい。「コストを重視するアプリケーションに理想的な形態だ」(同社)。ただし具体的な価格体系については明らかにしていない。
Cyclone IVファミリのうち、今回のソリューションに利用できる品種は、ロジックエレメント数が約75万個と比較的大きい品種かそれ以上の規模の品種である。実際には日本アルテラは、FPGAとIPコア、設定用ツールの他に、IPコアの使用個数を同社側で管理するためのセキュリティチップ(実態は小型のCPLDチップ)も併せてユーザーに供給する。ユーザーはこれをボード上でFPGAに接続する必要がある。そうしなければ、IPコアが機能しないという仕組みだ。
ビデオ解析の条件を設定するソフトウェアについては、ユーザー自身で記述する必要は無い。上記の設定用ツールを使って、PC上のグラフィカルな環境で、直感的な操作で解析対象のオブジェクトや事象を設定することが可能だ。このツールもEutecusが開発したものである。オブジェクトの種類や動き、位置、色などの条件を、複数掛け合わせて警告信号を生成することができる。Cyclone IVを用いる今回のソリューションでは、最大9個の条件を掛け合わせられるという。「DSPを使うこれまでの実装手法では、性能の制約から2〜3個の条件しか掛け合わせられなかった」(日本アルテラ)。
(薩川 格広)
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