ロゴスキー・コイルは、導体を流れる電流の非接触測定に用いるセンサー部品である。本稿では、特性がばらつきやすいロゴスキー・コイルの校正を、後段に接続するアンプと積分器のパラメータ変更で対応せずに、コイル単体で実現するための手法を紹介する。
ロゴスキー・コイルは、導体を流れる電流を非接触で測定する用途に使えるコイルで、テスト装置や測定器、消費電力のモニター装置などに使われている(ロゴスキー・コイルの原理について詳しくは囲み記事「ロゴスキー・コイルの動作原理」を参照)。ただし大量生産されたコイルは、製造工程のばらつきによって、特性が個体ごとにばらついてしまう。このため、ロゴスキー・コイルを採用する装置を設計する際には、搭載するコイルの特性がばらついていても電流の測定結果が同じになるような工夫が必要だ。
この課題に装置メーカーは通常、ロゴスキー・コイルの後段に接続したアンプと積分器の特性を校正することで対応する。すなわち測定対象とする電流の大きさが同じであれば、コイルの特性がばらついても常に感度が一定で、出力電圧が同じ値になるように、コイルとアンプ、積分器からなる信号処理系全体を校正するわけだ。そのためには、コイルとアンプ、積分器を一体構成にしておく必要がある。例えば、測定器の電流プローブ部は、実際にこうした構成を採用している。
ただしこの構成では、コイルだけを単体で校正することはできない。従って装置メーカーは、コイルとアンプ、積分器をモジュール化せざるを得ない。これは装置のユーザーにとってデメリットになってしまう。コイルが損傷すれば、たとえアンプや積分器は正常に動作していても、モジュール全体を取り替えなければならないからだ。反対に、コイルは正常だがアンプや積分器が故障した場合も同様である。
そこで本稿では、コイルをアンプと積分器から切り分けて、単体で校正できる方法を紹介する。当社(カナダMicrobridge Technologies社)が供給する独自の可変抵抗器「リジャスタ(Rejustor)」を使う。リジャスタは、装置メーカーが手元で抵抗値を繰り返し調整可能で、調整後はその抵抗値を持続する。これをコイルに組み込めば、コイルの固体ごとの特性ばらつきを、装置の製造時に実施する校正作業によって簡単に補償できる。
この結果、アンプと積分器をコイルとは別の部品として供給できるようになる。装置ユーザーは故障の際に必要最低限の部品交換で済むようになり、利便性や経済性が高まる。このほか、リジャスタを組み込んだコイルはそれ単体で特性を補償できることから、交流電源ラインの測定など、直流電源の利用が難しくアンプを使わずに受動的な系で構成しなければならない測定にも向く。
ロゴスキー・コイルは、環状の芯材に導線を巻きつけたコイルであり、非接触の電流センサーとして使える。測定対象とする導線(1次導体)を流れる電流の時間変化(di/dt)を検出し、その大きさに比例した電圧信号を出力する。この特性を利用すれば、交流(AC)電流や高速電流パルスを検出したり測定したりできる。 測定時には、環状のコイルの中心を1次導体が貫くように配置する。ロゴスキー・コイル自体は、折り曲げられる材料で製造できる上、開放終端を採用すれば環状の一部に切り欠きを設けておくことができるため、電流を流した状態の1次導体をそのままコイルの中心に配置できる。後は、切り欠きをつなげて測定すればよい。しかも芯材として非磁性体の材料を使うため、電磁的には空芯コイルとして機能する。従って、磁束が飽和せず大電流の測定に対応できることに加えて、インピーダンスが小さいという利点も備えている。 ロゴスキー・コイルの断面図を図A-1に示す。測定対象である1次導体に流れる電流が変化すると、周囲の磁界が変化し、磁界に交わるコイルに誘導起電力(EMF)が生じる。これがロゴスキー・コイルの出力信号となる。
誘導起電力の大きさは、ファラデーの電磁誘導の法則によって、電流の時間微分値(di/dt)とコイルの巻き数、コイルの断面積に比例する。コイルの断面が長方形のとき、誘導起電力は式(1)で表せる。ここでμairは空気の透磁率、Nはコイルの巻き数、Lはコイルの断面の高さ、bはコイルの内径の1/2、cはコイルの外径の1/2である。
EMF=(μairNL/2π)ln(c/b)di/dt (1)
図A-2は、ロゴスキー・コイルを使用した電流測定系の簡易的なブロック図である。ロゴスキー・コイルの出力信号は、式(1)の通り、1次導体を流れる電流の時間微分値に比例する。このため、コイルが出力した信号をアンプで増幅した後、積分器に通して1次導体に流れる電流の大きさに比例した信号に変換してから、最終的な出力信号(図中のVout)として取り出した。
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