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2012年期待のエレクトロニクス技術(省エネ編)EDN/EE Times編集部が展望する(2/4 ページ)

» 2012年01月24日 16時58分 公開
[EDN]

省エネルギー技術の導入は一進一退

 2012年の米国では、2007年に制定された「エネルギー自立・安全保障法(Energy Independence and Security Act of 2007)」の規定により、非効率な照明器具の段階的な削減が進むだろう。中でも白熱電球の利用は著しく制限される。明確に禁止されてはいないが、同法で規定されている照明効率の基準を達成することはできないからだ。

 そういったまさに絶好のタイミングで、白熱電球の置き換えに最適なLED電球が、手頃な価格で発売される。2012年1月にPhilipsが発売する、白熱電球で60W形に相当する明るさの調光機能付LED電球がそれだ(図1)。米エネルギー省主催のL-Prize(賞金1000万米ドル)を2011年8月に獲得したこのLED電球の価格は22米ドルである。今後は、L-Prizeの規定に従い、2013年に15米ドル、2014年には8米ドルまで値下げされることが決まっている。

図1 L-Prizeを獲得したPhilipsのLED電球 図1 L-Prizeを獲得したPhilipsのLED電球 白熱電球の60W形に相当する明るさで調光機能を備える。2012年初頭に発売される予定だ。

 しかし、日本では、LED電球をはじめとするLED照明の普及が急速に進んでいる。その背景にあるのは、2011年3月に発生した大地震とその後の津波により、原子力発電所の原子炉が4基破壊された。このため、電力不足が大規模に継続し、電力の供給停止や計画停電が行われる事態となった。地震発生後の数カ月間、原子炉を安定な「冷温停止」状態にするための政府の奮闘が続く一方で、企業や家庭に対する省エネ要請や計画停電は継続した。そして、省エネを旗印にして、導入段階にある高価なLED照明の導入が、企業や家庭で急速に普及したのである

 また、この福島の惨禍により、原子力発電所の安全性に対する疑念が世界規模で広がった。例えば、ドイツは原子力発電所の新設を凍結すると発表した。同国が、太陽光発電や風力発電を新たな電力源として強化していたとはいえ、その発電量は元々計画していた原子力発電所の分を賄うにはほど遠い。結局、原子力発電所の替わりに、石炭を燃料とする火力発電所を導入することになった。福島の原発事故以前であれば、CO2を大量に排出する石炭火力発電所の導入など、ドイツにはとうてい受け入れられなかっただろう。

 その一方で、経済が拡大している中国やインドでは、石炭火力発電所の建設が続いている。2011年末に米エネルギー省の試算によれば、世界経済の回復が進むと同時に、温室効果ガスの排出量を削減するための努力が継続されなかったため、世界全体のCO2排出量は過去最大規模に跳ね上がった。一条の希望の光となったのは、頁岩(シェール)層から得られる天然ガス(シェールガス)を、水圧破砕(Hydraulic Fracturing)技術によって比較的安価に取り出せるめどが立ったことだ。天然ガスを使う火力発電所からも温室効果ガスは発生するが、その量は石炭よりも大幅に少ないといわれている。ただし、水圧破砕がその周辺の地下水を汚染するという指摘もある。

 2011年は、太陽電池パネルの価格が急落した年でもあった。消費者にとって歓迎すべきことかもしれないが、太陽電池パネルメーカーは厳しい対応を迫られた。太陽電池パネルメーカー一つだったSolyndraは、設立後間もなく、約10億米ドルを増資したにもかかわらず破産した。米国政府はその半額を出資していたこともあり、新エネルギーを促進する政府投資に汚点を残すことになった。この失敗にもかかわらず、米国の民主党は太陽光発電への投資を継続するとしている。もし次の大統領選で、共和党が政権を取ったらどうなるのだろうか。これまでの共和党の選挙戦を見ていると、太陽光発電に対する補助金は撤回されそうだ。しかし、Solyndraが設立されたのはブッシュ政権時代であったことも忘れてはならない。

 また2011年は、米国の電力事業者がスマートグリッドの推進に積極的に取り組み、多くの地域でスマートメーターの普及が進んだ。しかしながら、スマートメーターの背景となる技術や、老朽化している米国の電力網を近代化する上でスマートメーターが果たす重要な役割に関する啓発/啓蒙活動は順調に進んでいるとは言い難い。予想された通り、スマートメーターの導入は一部の利用者から不安と嫌悪で受け止められた。無線通信経由でエネルギー使用情報を伝送するということが、電磁波による健康被害への不安を煽り立てるとともに、利用者の電力消費情報にアクセス可能な「ビッグ・ブラザー」(ジョージ・オーウェルのSF小説「1984年」に登場する、全ての人々を監視する支配者のこと)によるプライバシー侵害の危険性も指摘されている。

 電力事業者が利用者の不安に対する啓蒙活動を強化した結果、利用者の反応は和らぎ、騒動は鎮静化したように見える。スマートメーターの普及に伴い、2012年はエアコンや照明などの機器の電力を自動で制御するスマートビルディングが、スマートグリッドに統合される最初の年になるだろう。一般家庭がスマートグリッドにつながるよりずっと前に、スマートビルディングとなった商業施設や産業施設がありふれたものになると予想される。電力消費の傾向が比較的単純で、支払う電気代が高額な大規模ビルディングは、スマート化に要する投資の早期回収が容易だし、施設管理者が検討する価値が十分にある。

(Margery Conner:Technical Editor, EDN)

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