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HART通信に対応するモデムIC、他社品比で基板面積を75%削減可能ADI AD5700

工場や化学プラントなどの自動化ライン向けの計装機器に利用されているHART通信に対応するモデムICである。集積度を高めたことにより、HART通信機能を実装した基板を構成する際に、競合他社品と比べて基板面積を75%、外付け部品の個数を60%削減できる。

» 2012年03月01日 06時30分 公開
[朴尚洙,EDN Japan]

 アナログ・デバイセズ(ADI)は2012年2月、HART(Highway Addressable Remote Transducer)通信に対応するモデムIC「AD5700」を発表した。HART通信は、工場や化学プラントなどの自動化ライン向けの計装機器に利用されている通信方式で、「現在、1年間に出荷される計装機器のうち75%はHART通信に対応するようになっている」(ADI)という。AD5700は、競合他社品と比べて、消費電力とパッケージの外形寸法が小さいことや、回路面積や外付け部品の個数を大幅に削減できることを特徴とする。計装機器の他、HART通信を用いるリモートセンサーシステムなども主な対象機器となっている。既に量産出荷を開始している。


 工場や化学プラントなどのプロセス制御に用いる計装機器の通信規格のうち、100m以上の長距離の信号伝送を行う用途で広く利用されているのが、4〜20mAの直流電流を用いたアナログ通信(以下、4〜20mA通信)である。この4〜20mA通信は、アナログ通信である上に、1方向にしか信号を伝送できない。これらの課題を解決するために1980年代から提案され始めたのがHART通信である。HART通信は、4〜20mA通信に用いるアナログ通信線上に、周波数が1.2kHzと2.2kHzの交流信号を乗せることにより、双方向のデジタル通信を実現する通信方式である。最大のメリットは、既にさまざまな場所に導入されている4〜20mA通信の信号線を流用しながら、計装機器をHART通信に対応するものに置き換えるだけで、4〜20mA通信よりも高度なプロセス制御を実現できることだ。

HART通信のイメージ HART通信のイメージ(クリックで画像を拡大) 出展:アナログ・デバイセズ

 AD5700は、このHART通信のモデム回路を集積したICである。送信回路については、HART通信の規格に準拠する正弦波を生成するDDS(Direct Digital Synthesizer)エンジン、D-Aコンバータ、通信距離がkm単位になっても確実に通信波を届かせるためのバッファアンプを、受信回路については、競合他社品のHART通信モデムICでは外付けになっているバンドパスフィルタや、A-Dコンバータ、波形処理用のDSPエンジンを集積しているといった具合だ。マイコンとの接続インタフェースはUARTとなっている。また、誤差0.5%の発振器を内蔵する「AD5700-1」も用意した。ADIは、「複数のHART通信チャネルを搭載するコントローラ側の計装機器の場合、外付けの発振器を共有できるのでAD5700を使用すれば良い。一方、HART通信チャネルを1個だけ備えるリモート側の計装機器には、発振器を内蔵するAD5700-1が最適だろう」としている。1000個購入時の参考単価は、AD5700が3.75米ドル、AD5700-1が4.725米ドルである。

「AD5700」の回路構成競合他社品との比較 左の図は「AD5700」の回路構成。右の図は競合他社品との比較である。(クリックで画像を拡大) 出展:アナログ・デバイセズ

 このように集積度を高めたことにより、HART通信機能を実装した基板を構成する際に、競合他社品と比べて、基板面積を75%、外付け部品の個数を60%削減できるという。パッケージも、外形寸法が4mm角の34端子LFCSPで、業界最小だとしている。また、動作時の消費電流は、競合他社品比で38%低い178μAとなっている。バッファアンプを使用する場合も300μA以下に抑えた。この他、動作温度範囲も、競合他社品が−40〜85℃のところを−40〜125℃に広げている。電源電圧範囲は2〜5.5V。「5V以上の電源電圧に対応している製品はあまりない」(ADI)という。

 なお、ADIは、4〜20mA通信向けのD-Aコンバータとして、コントローラ側に用いる「AD5755」(関連記事)や「AD5422」、リモート側に用いる「AD5421」などを提供している。このAD5421とAD5700、機器制御用の8ビットマイコンなどから構成される回路は、HART通信の規格を策定するHART Communication Foundation(HARTコミュニケーション財団)から、HART通信のリファレンスとして認定されている。

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