民生機器、計測、通信、自動車、工業機器、医療機器など、さまざまな分野に使われる「データ・コンバータ」について、その概念をあらためて解説する。
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民生機器、計測、通信、自動車、工業機器、医療器など、さまざまな分野に使われるデータ・コンバータは、人間の身の回りで生じる多くの物理現象と、バーチャルな世界であるデジタル信号処理の間を結ぶ半導体素子です。
中でも、デジタル・アナログ・コンバータ(以下、D/Aコンバータ)とアナログ・デジタル・コンバータ(以下、A/Dコンバータ)は、データ・コンバータ素子の代表例で、デジ・アナ混在回路として扱われることが多いこれらの素子は、実際にはアナログ素子として見なすと、多くの場合、よい結果を出してくれます。
本稿では、メジャーなコンバータ素子回路の特長、そしてその使い方の基本を解説していきます。
最初に、D/Aコンバータの基本回路と、その特長について説明します。後に解説しますが、多くのA/Dコンバータ回路は内部にD/Aコンバータを内蔵しているため、まずはD/Aコンバータについて理解を深めることが妥当でしょう。
D/Aコンバータの機能そのものは、デジタルの入力コードに対し、電圧あるいは電流のアナログ値を出力することです。D/Aコンバータの基本動作は、基準信号(リファレンス)をそのコードのステップ数だけ分割して出力することです。このステップ数をコンバータの分解能(Resolution)、またステップの最小刻みをLSB(Least Significant Bit)と呼びます。
現在は2進数によるコンバータが一般的ですので、分解能はビット数Nを使い、2Nと表現されます(例えば8ビット・コンバータの分解能は、28=256になります)。全体のレンジをこの分解能で割り算したものが、1LSBの値になります。表1に10Vレンジのときの各ビット数当たりの1LSBの電圧を示します。
表1を見ると、例えば24ビットD/Aコンバータの場合、1LSBは約600nVになります。この電圧は、2.2kΩの抵抗が25℃のとき発生する10kHz帯域でのノイズと同じ値になります。難しい話は省きますが、抵抗は回路中に存在するだけで電気的なノイズ(ジョンソン・ノイズと呼びます)を発生します。
ですから2.2kΩ以上の抵抗を回路の不適切な部分に使えば、それだけで24ビット1LSBの信号がノイズに埋もれてしまうことになります。高精度コンバータ回路の難しさを、感じていただけるでしょう。これはA/Dコンバータの場合でもまったく同じです。
表2に現在使われているポピュラーなD/Aコンバータのアーキテクチャ(回路原理の構成)を示します。
電圧ストリング型
最もシンプルな考え方は、同じ値の抵抗を分解能の数(ステップ数)だけ直列に接続し、その接続点からのタップをスイッチ(もちろん半導体スイッチ)で選択するという実現方法です(図2を参照してください)。抵抗列(抵抗ストリングと呼びます)の両端に基準電圧をつなげれば、選ばれたタップ位置の電圧は、その分圧比で出力されます。
この形はちょうどボリューム抵抗(ポテンショメータ)の動作と同じように見え、可変抵抗器としても使うことができます。デジタル式のポテンショメータということで、Digi-Potと呼ばれることもあります。ただし機械式のポテンショメータと違い、電源以上の電圧を扱うことができないことと、電源が入っていなければ、抵抗体としては見えないことに注意してください(電源なしのとき、テスターで抵抗を測ってもまったく異なる値になります)。
この抵抗ストリング型は、ビット数N(分解能)が大きくなると、抵抗体やスイッチの数が2のN乗で増えていきます。12ビットでは212=4096セット必要になり、ICとはいえチップが大きくなってしまいます。
R-2Rラダー型
そこで基準信号の分割用抵抗ネットワークを工夫し、それらの数をずっと少なくしたものがR-2R型D/Aコンバータです。回路構成は、図3を見てください。R-2R型には電圧型と電流型がありますが、ここでは電流型を例にして解説します。使う抵抗はRとその2倍の2種類です。これらの抵抗を図3のようにはしご形に接続し、基準電圧は左端に接続します。このネットワークをラダー(はしごの意味)と呼びます。
図3のA点からグランドを見ると、その抵抗値はRになります。流れる電流はちょうど2分の1ずつです。1つ左のB点からグランドを見ると、その抵抗値はやはりRです。これは基準電圧がつながるC点でも同じです。Cから流れ込む電流は、基準電圧÷Rで、はしごの接点を1つ超えるごとに2分の1にされていきます。図3では3ビット分のみですが、これをつないでいけば多ビットの電流出力型D/Aコンバータが作成できます。
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