オペアンプICに個別トランジスタを“ちょい足し”して性能を高めたり機能を拡充したりできる定番回路集。今回は、トランジスタの親戚にあたるダイオードを使った回路です。オペアンプICの入力差動電圧が絶対最大定格を超えないように抑え込んでアンプを保護したり、グラウンドセンス回路の入力を保護したりする用途に使えます。
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実現できる機能 | 通過する信号の振幅がダイオードの順方向電圧(VF)を超えないように抑える。 |
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こんな場面で有効 | オペアンプICの入力差動電圧が絶対最大定格を超えないように抑え込んでアンプを保護したり、グラウンドセンス回路の入力保護にも使える。 |
今回の“ちょい足し”回路は、トランジスタの親戚にあたるダイオードを使った回路です。皆さんも、回路図の中に図1のようなダイオード回路を見掛けたことがあるかもしれません。特にオペアンプの入力回路などに多く使われます。
この回路に信号を加えると、信号の振幅がダイオードの順方向電圧(VF)を超えると導通し始め、VF以上の振幅の電圧はショートされた状態になって出力に表れなくなります。2個のダイオードが互いに逆方向の極性で接続されているので、この回路はプラス側、マイナス側どちらでもダイオードのVFひとつ分の電圧より大きくなると、ショート状態になってそれ以上の振幅が出なくなります。信号の振幅を一定値で“切り取る”ように見えるので、この回路を「クリップ回路」と呼んでいます。
図2をご覧ください。ダイオードに流れる電流は、抵抗Rと元の信号の電圧で決まります。ダイオードのVFは、温度や電流、ダイオードの材質などにより異なりますが、25℃のときにシリコンダイオードで約0.65V、ショットキーダイオードでおよそ0.3Vです。従って、この図の回路でクリップされる振幅は±VFになります。
ここまでは“ちょい足し”するこの回路の説明でした。次は、この回路が実際にはどのような目的でオペアンプと組み合わせて使われているか、解説していきましょう。
よく使われる例が、オペアンプ回路の2つの入力(反転入力、非反転入力)の間にクリップ回路を挟んだ図3のような回路です。オペアンプの2つの入力は、動作中はオフセット電圧を除いてほぼ同じ電圧(バーチャルショート=仮想的にショートしているように見える)のはずなので、この2つのダイオード自体はいずれも導通することはなく、「ただそこに付いているだけ」ということになります。
一見すると無駄に見えるこのダイオード回路は、何のために付いているのでしょう。オペアンプが動作しているときは、2つの入力は同じ電位ですが、図4のように片側の入力に例えばステップ状の信号が入った場合、低速のアンプ(高精度アンプなど)ではフィードバック側の電圧変化がその速度に追いつかず、2つの入力の電位が一瞬ずれてしまいます。
もちろんこの後、フィードバック側が追い付いて、同じ電圧のバーチャルショートの状態に落ち着きます。しかし短い時間ですが、2つの入力に電位差(入力差動電圧(VDiff)と呼びます)が生じます。
オペアンプICには製品の仕様として、この入力差動電圧に最大定格が規定されています。例えば、スタンダードな高精度オペアンプとして長い間使われている「OP27」のデータシートを見ると、絶対最大定格のページの表に、この入力差動電圧の最大値が±0.7Vと記されています(表1)。
絶対最大定格とは、「これを超えると、場合によってはICが破壊的なダメージを受ける危険性がある」という限界ですから、このリスクが考えられるときは、何らかの保護が必要です。先の図4の回路に戻ると、もしステップ状の信号が印加される可能性があると、それによって短時間ですが入力差動電圧が定格を超えることになります。
そこで2つのダイオードを図3のように挿入すれば、ステップ信号が入力されても、その差動電圧のずれは±VF以下の範囲になります。ショットキーダイオードを使えば、±0.3V程度の範囲に抑えることができます。出力が追いついて2つの入力間の差動電圧がバランスして0Vになれば、このダイオード回路は導通しないので、通常のオペアンプ回路と見なせます。
ダイオード回路は、このようにしてオペアンプの入力を保護します。この目的では、ショットキーや通常のシリコンのスイッチング用ダイオードを用いることができ、大電流用のダイオードは必要ありません。
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