正弦波発振器の課題を解決する回路を提案する。
正弦波発振器の周波数を変えるには、一対の連動可変抵抗器を用いて、全可変範囲にわたって発振器の平衡条件を満たすように、特性を完全にマッチングさせなければならない。この制約により調整範囲が制限され、コストも高くなり、その結果応用が限られてしまう。
そのような問題点を解決した正弦波発振器が、図1に示す回路である。1個の可変抵抗器R1を用いることにより、広範囲の周波数を調整できる。この発振器は平衡条件を満たす必要がないため、マッチングの問題は一切生じない。また、可変抵抗器を接地することは、多くのアプリケーションにとって有利なことでもある。
一般的な正弦波RC発振器と同様に、この回路は1個のオペアンプIC2と2つの帰還ループによって構成されている。1つのループは周波数に依存しない正帰還ループで、2個の固定抵抗(R2、R3)を用いている。もう1つのループは周波数に依存する。このループは、コンデンサC1およびC2、可変抵抗器R1および単極双投アナログスイッチIC1を用いており、IC1はSW入力に印加される周期的な矩形波パルス信号によって駆動される。
スイッチング周波数FS=1/Tが発振周波数よりはるかに高く、パルス幅τがスイッチング周期の半分(τ=0.5T)と仮定すると、周波数に依存する帰還ループの電圧伝達関数は、近似的に次式で与えられる。
ここで発振周波数ω0=1/2R√C1C2で、d0=√C1/C2+2√C2/C1、そしてd1=2√C2/C1である。この関数を用いて、正帰還回路の伝達係数をγ=R2/(R2+R3)と仮定すると、発振条件として、γ>d1/d0=(2√C2/C1)/(2√C2/C1+√C1/C2)という関係が得られる。この発振条件はR1には依存しない。従って、接地している抵抗R1の制御により、発振周波数のみを制御することができ、発振条件には影響を与えない。つまり、この発振器では広い周波数範囲にわたって、出力の波形を維持しながら、周波数を調整することができる。
PSpiceシミュレーションの結果、R1を1.2MΩから1.2kΩまで変化させることにより、発振周波数を3桁(20Hz〜20kHz)にわたって調整できることがわかった。この設計ではIC2にLT1361を用いており、R2=1kΩ、R3=4.9kΩ、C1=10nF、C2=1nF、FS=500kHzとしている。出力電圧振幅は3.2V〜3.3Vである。0kHz〜100kHzの帯域における全高調波歪みは3%を超えない。また、発振周波数は可変抵抗器のコンダクタンス(G1=1/R1)に比例するため、この発振器を広帯域でリニアリティのある「コンダクタンス‐周波数コンバータ」、あるいは「抵抗‐周期コンバータ」としても使える。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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