マイクロチップの「MCP19111」は、アナログ方式のDC-DCコンバータ制御ICにフラッシュマイコンを混載した製品である。これを同社はデジタル制御とアナログ制御の“ハイブリッド型”と呼ぶ。電力容量が50〜200W程度と中規模の電源回路で、旧来のデジタル制御ICではその自己消費電力が無視できないような用途に向くという。
Microchip Technology(マイクロチップ テクノロジー)は2013年1月29日、電力容量が50〜200W程度の電源回路に向けて、8ビットのフラッシュマイコンを混載したDC-DCコンバータ制御IC「MCP19111」を発表し、同日付で量産出荷を開始した。
外付けする2個のパワーMOSFETをPWM信号で駆動し、同期整流方式で出力電圧を生成する、降圧型の制御ICである。高い設計柔軟性が得られるとともに、電源回路の変換効率を設計仕様や負荷の状態に応じて最適化できるメリットがあるという。サーバ装置やネットワーク機器、セットトップボックスなどの電源回路に使える。
同社は従来、電源回路の出力電圧を安定化するフィードバックループの制御にデジタル信号処理を取り入れた、いわゆる“デジタル制御電源”向けの制御ICの他、同様の制御を旧来のアナログ方式で実装した電源制御ICを製品化していた。
それに対し今回発表した製品は、「これら2つの方式のハイブリッド型だ」(同社でAnalog Marketing担当のVice Presidentを務めるBryan J. Liddiard氏)と説明する。すなわち、フィードバックループの制御にはアナログ方式を採用し、内蔵マイコンはそのアナログ制御部の特性を調整したり動作を管理したりする役割を担う。これにより、「デジタルによる柔軟性とアナログならではの高効率・高速応答という、2つのメリットを“いいとこ取り”できる」(同氏)という。
一般に、デジタル制御電源向けのICは演算性能の高いデジタル信号処理回路(マイコンコアやDSPコア)を搭載しており、アナログ方式の制御ICに比べて自己消費電力が大きい。「電力容量が200Wを超えるような電源回路では無視できる大きさだが、容量が中程度の電源回路では効率を引き下げる要因になってしまい、適用しにくかった」(同氏)。一方でアナログ方式の制御ICは通常、外付けの抵抗やコンデンサの値で特性を設定するので、設計の柔軟性は比較的低くなってしまう。
新製品では、アナログ方式の制御部に抵抗とコンデンサのアレイを集積しており、それらの接続を切り替えることで特性を調整できるようにした。内蔵のマイコン上で稼働するソフトウェアで、その切り替えを制御する仕組みだ。負荷の状況に合わせて、特性を動的に調整することも可能である。さらに、同ソフトウェアでは、外付けパワーMOSFET駆動時のデッドタイムを調整することもできる。設計する電源の仕様や採用するMOSFETの性能などに応じてデッドタイムを最適化すれば、いわゆる“デッドタイム損失”を最小化でき、電源回路の効率を高められる(デッドタイム損失に関する参考記事)。
入力電圧範囲は4.5〜32V。価格は5000個購入時の単価が2.81米ドル。5×5mmの28端子QFNパッケージに封止した。外付けするパワーMOSFETを駆動するドライバ回路も集積しており、ユーザーは単体のドライバチップを別に組み合わせる必要はない。
マイコンコア上で実行するソフトウェアの開発については、同社マイコン製品の統合開発環境「MPLAB X IDE」が使える。専用GUIプラグインを利用すれば、ユーザー自身はソフトウェアを一切記述することなく、GUI上で所望の仕様を設定するだけでコードを生成することが可能だ。
このGUIを使わずに、ユーザーが任意にプログラミングし、独自のアルゴリズムを実装することもできる。アナログ制御部の特性を負荷の状況に応じて動的に切り替えるようなアルゴリズムについては、GUIには用意されていないため、ユーザー任意のプログラミングで実現する必要がある。ただし基本的なライブラリについては、マイクロチップが提供する。
マイクロチップは今回の新型制御ICに併せて、この制御ICに組み合わせて使える高速パワーMOSFETの新製品群も発表した。定格が25Vでオン抵抗の値が1.8m〜13mΩの範囲で異なる4品種である。さらに、新型制御ICと同社のパワーMOSFETを実装した評価ボード「ADM00397」も発売した。
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