ルネサス エレクトロニクスの車載情報機器向けSoC(System on Chip)「R-Car H2」は、合計9つのCPUコアを搭載するなど、車載情報機器向けSoCとして「世界最高性能」(同社)を実現している。「PowerVR G6400」による画像処理能力の高さを示すデモンストレーションも行った。
ルネサス エレクトロニクスは2013年3月25日、東京都内で会見を開き、カーナビゲーションシステムや運転支援システムなどの車載情報機器向けSoC(System on Chip)の第2世代品「R-Car H2」を発表した。ARMのアプリケーションプロセッサ「Cortex-A15」と「Cortex-A7」をそれぞれ4つずつ、ルネサスの独自プロセッサ「SH-4A」を1つ、合計9つのCPUコアを搭載するなど、車載情報機器向けSoCとして「世界最高性能」(ルネサス)を実現したことを特徴とする。同日からサンプル出荷を始め、2015年6月から量産を開始する予定。2016年6月の量産規模は月産10万個を計画している。
会見には、2013年2月22日に発表された組織変更で、MCU事業本部、SoC事業本部、技術開発本部を統合して発足した第一事業本部の本部長に就任した、執行役員の大村隆司氏が登壇した(関連記事:「ルネサスが経営陣を刷新、新社長は震災からの早期復旧で活躍した鶴丸哲哉氏」)。大村氏は、「世界トップシェアの車載マイコンを展開している自動車分野は、当社にとって中核事業だ。この自動車分野で、制御系システムに用いられるマイコンと、ITと関わる車載情報機器向けSoCを融合したソリューションを提供できるのは、ルネサスだけだという自負がある。制御とITの融合で、安全・快適なクルマ社会の実現に貢献していきたい」と語る。
ルネサスは、「R-Car」の第1世代品として、2011年2月にミッドレンジ市場向けの「R-Car M1」、2011年8月に普及価格帯向けの「R-Car E1」、2011年10月に最上位品の「R-Car H1」を発表している。これらは、2013〜2014年に市販される車両や車載情報機器への搭載を想定して開発された。
今回発表したR-Car H2は、2015〜2017年に市販される車両や車載情報機器を想定して開発された第2世代品の中でも、最上位品に位置付けられる。第2世代品のうち、ミッドレンジ市場向けの「R-Car M2」と普及価格帯向けの「R-Car E2」は、2014年までに順次発表される予定だ。
R-Car H2は、次世代車載情報機器を開発する上での課題を、「システムの応答性能の改善」、「高機能な運転支援機能の統合」、「ソフトウェア開発効率の向上」の3つに分けた上で、これらを全て解決できるような機能を搭載している。
まず、システムの応答性能の改善については、R-Car H1に搭載したARMのアプリケーションプロセッサ「Cortex-A9」よりも高性能なCortex-A15を4コア搭載することで対応した。Cortex-A9を4コア搭載するR-Car H1のピーク処理性能が、1万2000DMIPS(Dhrystone MIPS)であるのに対して、R-Car H2は2倍以上の2万5000DMIPS以上となっている。これによって、応答性能を最大50%高められるという。
しかし、高性能のプロセッサコアを使うと消費電力が増大してしまう。「特に電気自動車などでは、車載システムの消費電力を低減しないと、走行距離が減少しかねない」(ルネサスの第一事業本部で自動車システムソリューション部の担当部長を務める吉田正康氏)。そこで、R-Car H2は、Cortex-A15と比べて処理性能は低いものの消費電力を大幅に抑えられるCortex-A7を4コア搭載している。これら4つのCortex-A15と4つのCortex-A7を、車載情報機器の処理負荷に応じて切り替える「big.LITTLE処理」によって、高いピーク処理性能と低消費非電力性能を両立させた(関連記事:『ARMの新コア「Cortex-A7」は「A15」と連携、単体でも性能は「A8」以上』)。
さらに、制御系システムとのインタフェースとなるCAN(Controller Area Network)や車載情報機器の高速起動など、リアルタイム性の高い処理を受け持つ「SH-4A」コアも1つ搭載している。SH-4Aの性能は、「R-Car H1に搭載したものと同じ」(吉田氏)である。
グラフィックス処理性能についても、Imagination Technologiesの最新GPU「PowerVR G6400」を採用して大幅に向上した。Imaginationの「PowerVR SGX543MP2」を搭載するR-Car H1と比べて、浮動小数点演算処理性能は約10倍となっている。3Dグラフィックスを描画するAPI(Application Programming Interface)であるOpenGLについても、最新のES3.0に対応しているので多彩な表現が可能である。アンチシーンエイリアスも、従来の4倍から8倍に拡張し、さらに滑らかな線描画を行えるようにした。OpenCL1.1eによるGPUコンピューティングの高速処理にも対応している。
CPUの動作周波数については、「300M〜1GHz強の範囲を想定しているが、顧客の求めに合わせて設定することになる」(吉田氏)とした。会見場で行った評価基板によるデモンストレーションでは、CPUの動作周波数が1GHz強、GPUの動作周波数が500MHzに設定されていた。
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