これらの方法で入手できない場合は自分でパラメータを同定していかねばなりません(同定とは特性曲線の形を決め、パラメータを決めることです)。
しかし、“モデルのパラメータを決める”と言っても数十個のパラメータをむやみに変えていっても時間ばかりがかかり、決して正しいモデルを得ることはできません。
主な同定法の手法を以下に示します。ただし、自分で作成したパラメータですので、目的とする特性を表現しているか、その他のシミュレーション特性への影響は問題ないかといったことの事前確認が必要なのは言うまでもありません。
そして、使用中のSPICEモデルに変更を加えた場合は別名で管理するといった注意も必要です。
改変モデルを別名保存しておかないと、その素子を使用している全ての解析ファイルに影響を与えます。モデルの改変は幾つかのケースで採用してみて問題を生じないことを確認した後に行ってください。
SPICEというツールは、行列を解くソルバーを担当するものであることはこれまでの連載で既に述べました。しかし実際には、回路図を作成するプリソフト、結果を表示するポストソフトと組み合わせて販売されているのがほとんどです。
それらの中には、デバイスの特性曲線のX、Y座標値からパラメータを同定するツールが含まれていることがあります(例:「OrCAD PSpice」の“Parts”)。
その使用例を図1に示します。特性曲線の座標値を入力すればパラメータを抽出してくれます。SPICEの標準モデルにしか対応していませんが、自分でチューニングするためのベースモデルとしては十分でしょう。
図1の例として挙げた「OrCAD PSpice」の試用版(体験版)では、ダイオードだけしか使用できません。しかし、この機能だけでも、バイポーラトランジスタやMOSFETの接合容量のパラメータを決めるのに使えますので、入手しておいて損にはなりません。
SPICEの解析機能の1つであるパラメトリック解析により、SPICEパラメータを順次変化させ、特性曲線と類似になるパラメータ値を求める手法です。
モデルパラメータは“どのパラメータがどの特性に影響を与えるか”はほぼ決まっており、特性曲線を見ながら合わせ込んでいくことは、ある程度経験を積めば可能です。参照すべき類似のモデルパラメータがない場合には有効な手法ですが、先に決めなければならないパラメータが存在するので決める順番が大事です。
このようなノウハウも含めて書籍・文献は多く存在します。筆者のWebサイトでも一部紹介していますので参考にしてください。
モデルの完成度と解析結果の信頼性については、既に多くの資料で論議されています。不確かなモデルの使用は、結果の信頼性を著しく損ないますので、メーカーから入手したモデルであっても一度はご自身で特性を確認しておく必要があります。
例えば、半導体等価回路の寄生容量CJ*が設定されていても、モデル内部の直列抵抗RS*が設定されていないことがあります。このようなモデルを使うと、過渡解析のトラブルの項で述べたように、条件によっては異常電流が流れることがあります。RS*が設定されていない場合は、少なくとも1〜10mΩ程度を設定しておいてください。
必要なSPICEモデルがそろったところで、目標の製品仕様を実現するいろいろな回路/工法について検討を始めることになります。
まず、使用する回路の半導体/ICの特性をどのように決定していくかですが、当初の計算では最大定格や大まかな特性ぐらいしか決められません。諸特性をこれから検討していくわけですから、この段階では図2の簡易機能モデルをよく用います。
これらのモデルは機能が独立しているので、電流飽和や各種特性を自在に設定できます。ですから、要求特性を明確にしやすく、収束問題の原因も分かりやすいのです。
要求特性が決まれば最終モデルに置き換えて再確認します。
一方、バイポーラトランジスタやダイオードではこのような簡易機能モデルよりも次の手法が良いでしょう。
CRパーツなどは物性値以外に設定する項目はありませんが、半導体では大電流域での飽和現象や微少電流域の漏れ電流などの不都合を生じます。このため、仕様に合わせて半導体のモデルを使い分けなければなりません。
しかし、半導体への要求仕様が固まってくるのはもっと検討が進んでからです。そう考えると、検討の都度、トランジスタやダイオードの定格を変更することは、SPICEモデルの入手性も考えれば苦労の割には成果が少ないと言えます。
ここでは半導体のモデル型番を変更せず、簡単な設定で定格変更と同様な効果が得られ、半導体の要求特性の目安が得られるAREA属性について説明します。
AREA属性とは、半導体の特性がそのチップ面積に左右されることを利用したものです。面積比を指定することで、面積に影響されるモデルパラメータを自動で換算してくれます。
その検討例として、フリーのツールである「LTspice」を使ったケースを図3に示します。図3(a)のhfe測定回路でAREA属性を0.1〜1.0〜10に設定すると、図3(b)では目的通り面積比に応じて曲線が移動していきます。この機能により、0.1倍、10倍の電流定格のモデルを使用したのと同じ効果を得ることができますので、回路図を書き換えずに検討を進められます。必要な倍率が決まれば、その定格を持つ、新しいモデルに置き換えて最終設計へ進めばよいのです。
注1)ダイオード、トランジスタのAREA属性(MOSFETではM属性)を設定するのは図3(a)のように回路図の階層で設定します。設定方法はお手持ちのツールのマニュアルを参照してください。
注2)あまり知られてはいませんが、LTSpiceでも、この例のようにAREA属性を設定することは可能です。
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