ここまで説明してきましたように、部品の極限の組み合わせを考慮できるワーストケース解析ですが、工程能力の評価としてワーストケース解析だけを行えば事が足りるかというと、次に説明する事例のようにワーストケース解析だけでは問題点を見落としてしまうケースがあるのです。
今回検討する対象回路図は図3に示すLC共振回路です。
電圧制御発振器VCOで1VPの正弦波を共振回路に与え、図中の節点RESの電圧V(RES)を調べます。今回はV(RES)が大きくなる方向を最悪値とし、VCOからの1VPの正弦波出力電圧は時間波形として出力されるのでV(RES)の最大値を過渡解析で求めます。
標準状態でのV(RES)は8.8138VPでした。
L,Cにそれぞれ±10%、発振周波数にも±10%の変動を与えた場合のPSpiceの解析結果はリスト1のようになりました。
リスト1の感度解析の結果から各要素は全て+偏差の方が「出力電圧が高くなる」という結果です。この結果からツールによるワーストケース状態を求めて計算すると最悪値は4.0054VPとなりました。
えっ!! 標準状態より小さい電圧が最悪値になる?
とはどういうことでしょか?
手順や設定に間違いはなかったはずです。どこで何を間違えたのでしょうか?
確認のため、LTspiceを用いて冒頭で説明したランダム偏差法で同じ回路を検証してみます。
図2がその結果ですが、それぞれの値は、
L=166.76μH(Max) C=13.644nF(Min) f=110KHz(MAX)
の時、共振電圧は11.0778VPとなり、前述の感度解析法や標準状態よりも大きいのですが、この値が本当に最悪値なのでしょうか? なぜ、感度解析法の結果と異なっているのでしょう? また、今回の解析結果はどちらの値を信用すべきなのでしょうか?
最悪値というからにはその値はバラツキの分布の外側に位置するはずです。
バラツキの実力を確認するために、定数の偏差の組み合わせを網羅するモンテカルロ解析で図3の回路の実力分布を見てみましょう。N=100回の結果を図4に示します。
バラツキの中の最大値は
L=160.3μH(1.0572) C=13.6nF(0.90316) f=107.27KHz(1.0727)
の時、21.577VPとなりました。
このように、モンテカルロ解析からはPSpiceの感度解析法やLTspiceのランダム偏差法の解析結果よりはるかに大きい値が得られています。
したがって前述した2つのワーストケース解析機能ではともに最悪値を見落としているということになります。
ワーストケース解析で最悪値をうまく求めることができないとはどういうことでしょうか?
解析手法に何か問題はなかったのでしょうか?
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