SW電源の解析手法である状態平均化法を用いて動特性解析を行うとON-OFFタイプのコンバータの制御ループの周波数特性に(1−S)特性が現れます。これはON-OFFコンバータの制御原理としてTonの微小変動効果は次のToff時にしか出力に反映されず、結果として外乱に対して位相が逆転することによります。
一般的な回路である(1+S)回路の周波数特性は周波数と共に利得が増大し位相も進みますが、この(1−S)回路の利得-位相特性は位相が逆になっていることから利得が増大するにもかかわらず位相は90遅れを示します。ですから(1−S)回路が制御ループの中に存在していると利得の増加を抑えるために通常の積分型遅れ補償回路を挿入しても位相が余分に遅れるだけになり、安定制御が困難になる厄介な特性です。確認のためLTspiceを用いて正弦波入力時の出力と位相の様子を図4のように出力して見ました。比較のため(1+S)回路もout2として併記します。
動作周波数が10Hzですので出力としては62.8Vp程度になるはずです。図5の結果で(1−S)回路は遅れ位相に、(1+S)回路は進み位相になっていること、および、それぞれの振幅も確認できました。
ただし、波形の立ち上がりは後述のPSpiceの結果より緩やかです。
続いてPSpiceでも確認しましたがこちらは正常に動作していません。評価回路を図6に、結果を図7に示しますが分母の複素成分{Kx}=0で出力電圧のピークが3.5KV程度にハネ上がっています。図7の結果から分かるようにこの回路条件の場合、ラプラス素子の分母が1では正しく動作せず0.22×10−3以上の複素成分が分母に必要なようです。
確認のため分母の{Kx}成分を5×10−3にして動作を確認したものが図8です。この場合は正常に動作していることが分かります。
波形の立ち上がりはLT-Spiceよりも急峻です。この違いが安定性と関係しているのでしょうか?
TopSpiceでも同様の確認を行いましたがPSpiceと同じく分母に複素成分がないと正常に動作しません。{Kx}相当成分を1×10−3に設定して動作を確認しましたがこちらはピーク電圧が60Vに達しておらず、またt=0近辺の波形の立ち上がりも緩やかであり正常動作とは言えないようです。原因は分かりませんがSim・Circuit・Techbologies社の技術資料*)でもラプラス素子の動作については、
「TopSpiceでうまく動いた例を取り上げましたが、他のSPICEでは動かない場合もあります。その逆もありえますが、……」と注意が必要と述べています。
結局、急峻な波形の立ち上がりを含む過渡応答には3者とも注意が必要と言えるでしょう。
*)Sim・Circuit・Techbologies社の技術資料:SPICEで学ぶ電気回路の基礎 講座(11章)
次にnfftが調整できるTopSpiceとLTspiceにてnfftの効果を確認しました。
ただし、TopSpiceは表2の2次遅れ回路では正常に動作しませんでしたので表1の1次遅れ回路のみとし、LTspiceは1次遅れ回路では問題を生じなかったので2次遅れ回路のみとしました。
1次遅れのTopSpiceではnfftの増加に従って改善が見られました。そしてnfftを104に設定することで一見、正常に動作しているかのように見えましたが定常時を拡大してみると表に示すように微少振動が残ったままですので正常動作とは言えないと思います。(MU値は調整せず)
過渡解析の時間刻みを変化させてもnfftが同じであれば結果に大差が見られませんでした。どうやらインパルス応答の精度の問題か、あるいはDEMO版のデータポイント数上限による問題かもしれません。あるいはDEMO版では使えないState Space Modelでは違う結果が得られるのかもしれません。
LTspiceの2次遅れ回路ではnfft=104に設定することで正常波形を得ることができましたがその一方、nfft=102〜103では正常波形から程遠い形となり、かなりnfftに影響されることが分かりました。
LTspiceではnfftの影響がなくなるまでnfftを増大させて影響を調べておく必要があります。
これらの検討結果からラプラス素子は次のように動作しているようです
Window値については説明している文献が見当たらずよく分かりませんでした。FFTの用語から周期に関係していると判断するとTtと同義語とも考えられます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.