発振器の発振周波数fはC3の静電容量によって決まり、次式で近似的に求められる。
ここでΔVREF=VREFH−VREFL、VBIASは発振器に与える電源電圧である。
発振器で作り出した信号は、コンデンサーC2で直流成分を取り除き、抵抗R4を介して電流モードのPWMコントローラーIC「UCC3813」(IC2)の周波数設定端子(RCピン)に交流結合する。実際にはこのPWMコントローラーICでスイッチング電源を制御するわけだ。なお、C2の静電容量はC3よりも大きい値を選んでおく。
PWMコントローラーICの周波数設定端子に発振器出力の交流信号の正電位部分が印加されている間は、周波数設定端子に接続したコンデンサーCTの充電電流が増加する。するとPWMコントローラーICのPWM出力信号の周波数が上昇していく。交流信号の負電位部分では、CTの充電電流が減少し、PWM出力信号の周波数を下げる。
図2に発振器の出力信号波形を示した。この波形がCTに印加される。
R4の値を変えることで、CTの充電電流の変化量を制御できる。R4の値を小さくすると充電電流の変化量が大きくなり、結果としてPWM出力信号の周波数帯域幅が広がる。つまりスペクトラム拡散の効果が高まる。またPWM出力信号の周波数掃引速度は発振器の出力周波数によって調整可能である。
図3は、図1の回路を使って実際にスペクトラム拡散によるEMI低減効果を測定したものだ。PWMコントローラーICに発振器を付加していないときのスペクトルが、発振器を付加すると拡散する様子が見てとれる。1dBμVが1dBμAに相当する。PWM出力信号の基本波周波数が約12kHzの帯域に拡散されていることが分かるだろう。発振器を付加しない状態と比べて、EMIのピーク値は10dBμA程度低減されている。
拡散帯域幅を広げれば、EMIのピーク値はさらに減少する。ただし一方で、スイッチング電源の出力に、発振器の出力周波数に応じたリップル電圧が大きく現れてくるので注意が必要だ。また、図2に示した発振器の出力波形のなまりがなるべく生じないように、つまり波形の直線性をできるだけ高くしておくことも重要である。
発振器の出力波形がなまると、PWMコントローラーの出力周波数が最高値と最低値にとどまる時間が長くなる。その結果、拡散したEMIのスペクトラムに2つのピークが生じてしまう。このほかPWMコントローラーの出力周波数の最低値は、スイッチング電源に磁気飽和が生じないような値に設定する必要がある。
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。
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