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フェライト(1) ―― 磁性中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(1)(2/4 ページ)

» 2016年10月31日 11時30分 公開

磁性の原理

 表1の磁性は物質を磁界中に置いただけでも発現するので、外部からのエネルギー、例えば物質に電流を流すなどの作用で磁性が発現しているわけではありません。

 磁性体が磁性を持つ根本的な要因は磁性体を構成する原子構造にあります。古典的な原子モデルを図1に示しますが、この場合には次の2つの電荷の運動が考えられます。

図1:原子の古典モデル

1)旋回運動:古典的原子模型に表現されるモデルで、電子が核の周囲を回る運動ですのでループ状に電子が移動します。当然、磁束が発生すると考えがちですが、固体として見た場合にはこの電子は固体全体を移動できる自由電子となって固体全体を動き回るので磁性の原因とはなり得ません

2)スピン運動:相対論的量子論のディラック方程式を解いて得られる量子論的な電子の角運動量です。
 アップ(↑)とダウン(↓)の2つのスピン状態があり、この運動も電荷の運動ですので磁界を発生させます。これをスピン磁気モーメントと言います。

 結局、この電子のスピン運動が磁性の源となりますが、電子には逆スピンの電子が対となって軌道を埋める性質(パウリの排他律)があります。この性質のために2つの電子が同一軌道上に存在すると軌道上でスピンを打ち消し合いますので、全ての電子が磁性に関係するわけではありません。

 例として表2にガリウムの電子軌道配列と、スピン方向を示しますが、ガリウムでは原子番号31に対応した31個の電子が4pまでの各軌道を順次埋めています。しかし、その順番は電子軌道が歪んでいるために必ずしも1s軌道から順番に埋まるわけではなく、4s軌道のように高い軌道を先に埋めるケースもあります。

表2 電子の軌道配列 ガリウムの例 出典:TDK「テクマグ」(http://www.tdk.co.jp/techmag/ferrite/grain_2/flame2.htm

 その場合でも偶数個の電子で満たされた軌道はスピンによる磁化の方向が打ち消されるので、磁性の原因となるのは充填(じゅうてん)されていない電子軌道のものだけです。これを不対電子といい、不対電子のスピン運動によってスピン磁気モーメントが発生することになります。

 例えば、原子番号25のマンガンは3d軌道の25番の電子で終わっているので5個の不対電子(21〜25番の電子)を持っており、スピン磁気モーメントが大きいのでフェライトの材料としてよく用いられます。

 また、鉄は原子番号26ですので3d軌道の中の21、26のペアが充填状態になり、不対電子は22〜25番の4個です。しかし、磁気イオンとなったFe3+は4s軌道の2個(19、20番)の電子と、3d軌道の26番目の電子、計3個がはがされ、3d軌道の5個の電子が不対となってより強いスピン磁化を起こします。

 これらから鉄族原子はイオン化(化合物)された場合により強い磁性を発揮することになります。

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