立方晶系スピネル構造をしており、図4の単位分子8個で1つの基準パターン(分子胞)を構成します。この分子胞が数千億個集まって1つの結晶粒を構成します。
図4に示す単位分子の中には金属イオンMの占める位置が4個の酸素イオンに囲まれた中央のA格子(4面体位置)と、6個の酸素イオンに囲まれた左右のB格子(8面体位置)の2種類があり、それぞれ1:2の割合の位置関係になっています。この単位分子の磁石を原子磁石といいます。
中央のA格子に入る場合を正スピネル、両端のB格子に入る場合を逆スピネルといい、酸素イオンを通じて磁気モーメントは逆向き(図3の超交換相互作用)になり、その差分によって磁性が現れます。
図4では右上方向に合計10MB、左下方向に5MBの磁気モーメントが発生しており、差し引き右上方向に5MBの磁気モーメントが発生しています。固体全体で見た時のイメージは図5のようになります。(MB:ボーア磁気モーメント)
また、金属によってA格子への入りやすさが異なりますので金属(M)として2種類以上の金属を組み合わせて分子胞を構成することで種々の磁気的性質を調整できます。
特に原子番号30の亜鉛は表2の3d軌道が完全に充填されていてスピン磁気モーメントが0なのでA格子に入れるフェライトの添加剤としてマンガンと共に多用されます。代表的なものとして、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライトなどがあり、これらのスピネルフェライトは主として軟磁性を示し、コア材として用いられます。
本連載で説明するフェライトはこのタイプでソフトフェライトとも称されます。
ソフトフェライトは単一の結晶ではなく、SiO2などからなる絶縁性の結晶粒界を持つ多結晶構造です。
また結晶粒の中では全ての磁気モーメントがそろっているわけではなく、磁区と呼ばれる磁気モーメントがそろった多数の領域に分れています。また結晶は結晶面に起因する磁化容易軸を持っています。
大きな単一磁区内では磁区を通る内部磁束も増加し原子磁石に作用する回転モーメントも大きくなります。限界を超えると磁区は互いに極性が反転した複数の磁区に分裂し、エネルギーを減少させて安定化します。磁区と磁区の境界を磁壁と呼び磁気エネルギーを持ちます。
その他にも次のような結晶構造を持つフェライトも実用化されています。
硬磁性を示し、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライトが磁石として用いられます。(ハードフェライト)
高周波領域での磁気損失が小さいため、マイクロ波用磁性材料として用いられます。
次回はこの構造から決まる磁化の様子と磁性体の飽和について説明します。
ここで述べたように鉄族の磁性(フェロ磁性)とフェライトの磁性(フェリ磁性)のメカニズムは全く異なっています。
以前は「酸化鉄粉を加圧成形し、焼結させた鉄心=フェライト」との表記を時々、見かけましたが間違いと言えるほどに説明が不足しています。フェライトの主原料は確かに酸化鉄ですが、酸化鉄だけでは磁性の能力が足りません。
また、この文章だけからでは酸化鉄粉コアを成形したもの(=鉄系ダストコア)を焼結⇒鉄系ダストコア、あるいは溶けて一塊となった鋳鉄系コア? が想像されても仕方ありません。
参考文献:「フェライト技術の系統化」 国立科学博物館 技術の系統化調査報告 Vol.13 2009.May
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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