図3にESDの発生モデルの図を掲載する。
人体には(条件にもよるが)2,000V以上の電荷がたまる。それらが一瞬にしてマイコンを通して放電されるので、マイコンにとっては、強い衝撃になる(ドアノブで静電気放電の衝撃を経験した人はよく分かると思う)(図3(a))。
マイコンを搭載する製品の製造工程で、人がマイコンに直接接触することはまれだと思うが、万が一、直接マイコンを扱う場合(直接マイコンに触れなくても、真空ピンセットなどを介して扱う場合も含む)は、人体アース(リストバンドアース、静電靴など)をしっかり取って、人体に静電気をためないことである。人が運ぶ台車や作業の時に座る椅子のキャスター(車輪)は摩擦が発生するため、キャスターに絶縁材料を使っていると、ここも帯電する。キャスターの素材も導電性にする必要がある。
さらに、製品化された後でもESDはマイコンを襲う。製品に組み込まれた後に、人体からのESDによってマイコンが破壊した例を2つ紹介しよう。
1つは、欧州の電話機メーカーの製品で起きた事例である。春から量産が始まり、順調に生産を行っていたが、秋になって、市場でのマイコンの誤動作が報告され始めた。人が受話器を取ろうとすると、電話機が誤動作(フリーズ)するというものだった。冬になり、発生頻度が急激に増え、最悪の場合には使えなくなるということである。この電話機メーカーの依頼を受けて共同解析を行ったところ、欧州では秋から冬にかけて乾燥した気候になり静電気が起こりやすくなる。その静電気が受話器経由でマイコンに放電され、誤動作を誘発し、最悪の場合はマイコン、ひいては電話機を破壊するという結論に至った。この電話機メーカーには、ハードウェア対策としてシールドをお願いし、ソフトウェアではウォッチドッグタイマーで暴走(フリーズ)を感知してもらうことにして解決した。
もう1つの事例は、店頭で人が操作する端末の例である。この端末メーカーの場合、それまでESDの不具合は起こっていなかったが、新端末投入にあたりプリント基板の配線パターンを変更したところ、不具合が多発するようになった。新基板では配線パターンの引き回しが長く、かつループ状になっていた。さらに悪いことに、そのような配線が複数本あるということだった。この端末メーカーの具体的な配線パターンを掲載することはできないが、抽象化した配線図を図4に示す。
このケースは、頻繁に不良解析依頼が届くので、回路図とプリント基板の配線をヒアリングして、原因が分かった。対策としては、プリント基板の配線を元に戻して解決した。
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