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A-Dコンバーターの「ノイズ・スペクトル密度」を理解するNSDとは何か(2/5 ページ)

» 2018年06月11日 11時00分 公開

NSDを指標としたADCの選択

 ナイキストレートのADCでは、サンプリング周波数を2倍にすると、広がったナイキスト帯域の全体にノイズが分散されます。そのことから、ノイズ密度は3dB減少します。サンプルレートを2倍にしても、入力ノイズパワーに変化はありません。その状態で入力ノイズパワーが2倍の帯域幅に分散されるので、元の帯域内のS/N比は向上します。次式において、サンプリング周波数fsの値を2倍にするとノイズパワーは3dB低くなります。

 高速なADCのサンプリング周波数は、GHzの領域に達しています。これを利用すると、オーバーサンプリングによってS/N比を高めるというメリットを得ることができます。2つのADCの性能指標を比較する際、より高い周波数でサンプリングできる製品の方がノイズ密度を下げられます。そのため、より大きなメリットが得られると考えることができます。

FFTで得られるノイズフロアとNSDの違い

 一般に、FFT(高速フーリエ変換)では、数万〜数十万個のサンプルを使用します。あるいは、200万〜300万サンプルを使うケースもあるかもしれません。このことは、サンプルレートが異なるにせよ、ほとんどのADCでは、FFTを実施した結果、周波数ビンの幅が数百ヘルツから数キロヘルツになるということを意味します。FFTによって得られるビンの幅は、ナイキスト周波数(fs/2)をサンプル数で割った値(単位はHz)になります。例えば、131MSPSで動作するADC(ナイキスト周波数は65.5MHz)においてサンプルの数が216である場合、FFTビンの幅は次のようになります。

 ADCのノイズは、ナイキスト領域全体に広がります。そのビン幅は、NSDの定義に使用されるビン幅と比べて1000倍広いということになります。これは、1つのFFTビンの中に、より大きなノイズエネルギーが含まれるということを意味します。

 同様に、131MSPSのADCについて、6550万に上る非常に多くのサンプルを使ってFFTを実施したとします。その場合のビン幅は次のようになります。

 この場合、FFTで得られるノイズフロアはADCのNSDと等しくなります。また、総ノイズパワーに変化はありません。図1から分かるように、ノイズパワーが、幅の狭いビンから成る帯域全体に広がるだけです。

図1:ADCの量子化ノイズとFFTで得られるノイズフロア。ナイキスト領域におけるNSDと振幅を比較しています。ビン当たりのノイズはFFTで使用するサンプル数で決まります。NSDは1Hzの単位帯域幅で規定されます。

 幅が1HzのFFTビンとNSDの定義を対比してみます。それにより、FFTによって得られる一般的なノイズフロアが、ほぼ常にNSDのノイズフロアよりも高い理由がわかります。1Hzのビン幅が得られるように、FFTに使用するサンプル数を十分に大きく取る技術者はほとんどいません。FFTのサンプル数を増やすと、ノイズはより低く見えることになります。

 ただ、実際にはノイズの総量は変化しません。また、ノイズはナイキスト領域の全体に広がります。NSDの定義では、サンプル数によって変動する周波数ビンを単位として使うのではなく、幅が1Hzでノイズエネルギーが小さい1つの周波数ビンを単位として使用します。

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