ナイキストレートのADCは、入力帯域幅全体に関する全ての情報を取得するために必要な最も低いサンプリング周波数で動作します。通常はパイプライン型、SAR(逐次比較)型、フラッシュ型のうちいずれかのアーキテクチャを採用して実現されます。その場合、DCからナイキスト周波数までの量子化ノイズは基本的に平たんになります。つまり、各ADCは等価処理を伴うノイズレシーバだと表現することもできます。量子化ノイズの有限のパワーをfs/2の帯域全体で等しく受け入れます(図2)
ナイキスト領域の全体を対象にする必要がないアプリケーションが存在します。その場合、使用するADCについては、別のアーキテクチャを採用した製品を使用できる可能性があります。それは、バンドパス型で連続時間型のΣΔ(CTSD:ContinuousTime Sigma Delta、またはCTΣΔ)方式を採用したADCです。この種のADCでは、帯域内の量子化ノイズを帯域外に追いやる処理(フィルター処理)が行われます。この処理はノイズシェーピングと呼ばれています(図3)。この処理により、ノイズの伝達関数は平坦な形状ではなくなります。アプリケーションで対象とする帯域はナイキスト領域よりも狭く、ノイズも小さく抑えられます。その帯域を対象とし、CTSD ADCはSNRFSが最高になるように動作します(図4)
CTSDのアーキテクチャにはどのような利点があるのでしょうか。1つのメリットとしては、狭い周波数帯域内の信号だけを対象にするので、広帯域のNSDについて特に配慮する必要がなくなることが挙げられます。その代わりに、CTSD ADCの性能指標としては、狭い通過帯域におけるダイナミックレンジが重視されます。ノイズシェーピングの伝達関数は、ADCの設計時にループフィルターの段数を何段にするのかということをベースとして決まります。
重要な信号が、全ナイキスト領域よりも、かなり狭い帯域内だけに存在するアプリケーションが存在します。そうしたケースでは、デジタルフィルターによって、狭い帯域の外にノイズを追いやることで性能の改善を図ることができます。その処理は、デジタルダウンコンバージョン段で行うことになります。つまり、ナイキストレートのADCにおいて最終的な出力を行う前の段階で、データを間引いて微調整を行い、フィルター処理を施すということです。そのため、S/N比の計算には、このフィルター処理による補正係数を含めるべきです。ノイズに対しては、図5に示したようなフィルター処理が施されます。そのため、ノイズに対する処理利得を計算に組み込むべきだということです。
ナイキストレートのADCを100MSPSのサンプルレートで使用するケースを考えます。ただ、そのシステムでは、ADCのナイキスト領域である50MHz全体に注目する必要はありません。対象とするのは、ナイキスト領域の8分の1に相当する20MHz〜26.25MHzの部分だけです。つまり、幅が6.25MHzの帯域を対象とします。デジタルフィルターにアルゴリズムを実装し、この帯域向けにフィルターを微調整すると、オーバーサンプリングによる処理利得として9dBが得られます(以下参照)。
デジタルフィルターにより、図5のように2つの領域のノイズパワーが削減されます。このことから、フィルターによる処理利得は3dB向上します。上の例においては帯域幅の1/23の削減につながり、3dB×3dBの処理利得が生み出されることが分かります。
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