実際の流れでは図2の(a)低速流と(b)高速流のどちらの流れになっているのでしょうか?
この判断をするのに参考になる指数として1式で計算されるレイノズル数Reがあります。
分母の項が粘性の影響度、分子の項が慣性力を表し、条件にもよりますが1000を超える場合には渦の存在を考慮しなければならないケースも出てきます。流体力学では流れの乱れがない図2(a)の流れを層流、流れが乱れ、渦を考慮しなければならない図2(b)の流れを乱流と呼び、両者を区別します。
計算例
羽根車の直径Φ=70mm、幅W=300mm、回転数N=2500rpm、風量V=4.5m3/分、吸い込み側開口率α=50%
の場合、
これらの値からReを計算するとRe=2.3×0.01/1.6×10-5=1440
となります。全くの乱流という条件ではありませんが、完全な層流という条件でもないのでそれぞれのケースについて考えておく必要があります。
ただし、吐き出し口付近は圧力がかかった流れになっており、吸入側の様子の影響は受けにくくなっています。CFD*5)による解析結果を図4に示しますが翼間の流れを表す矢印が右から左へ向いており、乱れなく吐き出し口へ流れていることが確認できます。
*5)CFD:Computational-Fluid-Dynamics計算流体力学、数値流体力学
(a)層流の場合
まず図2(a)の低速流では層流と考えられますので渦は発生していません。
この場合には翼の上下面での流量に差はあっても全体として右から左へ流れていき、羽根車の内部に吸い込まれていきます。この流れは圧力差によって羽根車の中を通って2番目に流路抵抗の低い吐き出し口から外部へ流出していきます。
(b)乱流の場合
逆に図2(b)のように渦が翼から独立している高速流であれば乱流と考えられます。流速に従って流量は増加しますが同時に渦による騒音が顕著になってきます。通常は騒音の観点からこの領域では使用しません。
(c)中間の場合(遷移領域)
最後に渦が独立していない場合について、干渉を考えて空間に翼を2枚置いて考えます(図5)。
翼後端には下層流の回り込みによって時計方向の渦が発生していますが翼から独立しているわけではありませんのでこの渦の回転は翼全体に広がり、翼全体を時計方向の回転の循環流(渦)で包みます。
また下層流は前述のように流量が多く、気圧が高くなっていますので隣り合う気圧の低い上層流へ一部の空気が流れ込み、図5に示す反時計方向の渦が発生します。
先の時計方向の回転の渦と併せて、
Σ(循環渦)=0
が成立しますのでこの2つの渦(流れ)は定常的に存在することができます。この様子をCFDで可視化したものが図6です。図6からは翼間の渦(逆流方向)にもかかわらず、全体として下層流の流量の多さから羽根車の内部に空気を送り込んでいることが確認できます。
図6は翼後端と翼間の2カ所に渦の発生が見られますが翼後端の渦は完全には翼から離れていませんので粘性の影響を考慮した流れとしなければならないことが分かります。
これらの3つの状態の中で実際に使われるのは騒音の関係で層流から遷移流までです。
クロスフローファンの特性を理解する上で重要なのは図1(a)に示す、吐き出し口→吸い込み口の切り替わり部に発生する偏心流(渦)です。
この流れは吐き出しの一部が再び吸い込まれる吹き戻しになりますのでファンとしては仕事に関係のない領域になります。
この偏心流はプロペラファンやシロッコファンには存在せず、クロスフローファン特有の現象です。
特にフィルターの目詰まりなどによって吸い込み側の流路抵抗が上がりますと吸い込み流路内の気圧が低下しますので羽根車内部との圧力差が増加して前述の吹き戻し量が増加します。その結果、偏心流の面積が増大しますので通常の吸い込み流の流路面積が減少し、ファンとしての仕事量が減少します。つまり、目詰まりに対しては他のファンより弱いと言えます。
また、吐き出し口の流路抵抗が上がると羽根車内の気圧が上昇して吹き戻しが発生しやすくなり、やはりファンとしての仕事量は減少します。
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