今回は、なぜクロスフローファンは羽根車を回すだけで羽根の隙間から吸い込みと吐き出しが行われるのかについて説明をし、この原理に起因する使い方の注意点について説明します。電気系の技術者にはなじみの薄い『流れ』の話が主体になりますがファンの特性を理解する一助と考えてイメージを把握してください。
前回はファンの型式や使い方、その特徴について簡単に説明しましたが、その中でクロスフローファンについては動作イメージの説明が難しいために説明を省いてきました。このファンについては本シリーズとは別に文献や技術情報などを調査していたのですが手法が的を射ていなかったのか分かりやすい資料を見つけることができずにいました。また、いくつか見つかった資料もシロッコファンからの類推と思われ、クロスフローファンの特性をうまく説明できるものではありませんでした。
今回はなぜ羽根車を回すだけで羽根の隙間から吸い込みと吐き出しが行われるのかについて説明をし、この原理に起因する使い方の注意点について説明します。電気系の技術者にはなじみの薄い『流れ』の話が主体になりますがファンの特性を理解する一助と考えてイメージを把握してください。
図1にクロスフローファンの断面図と外観図を示します。
このファンでは回転方向に前傾し、軸方向に一様な翼を持つ羽根車を回転させると幅広い吸い込み口から空気を吸い込み、もう1つの開口部の吐き出し口から空気を吐き出します。
羽根車の内部を流れが横切るためにクロス(cross)フローファンと呼ばれます。
(ラインフローファンとも呼称)
どうして傾斜した翼を回転させるだけで吸い込みから吐き出しまでうまく動作するのでしょうか? この動作を考えるために最初に羽根車の翼の1つを取り上げて空気の流れを考えます。ここでは迎え角*1)を持つ平板翼に右側から空気の流れが当たるケースを考えます。
図2(a)の低速流の場合、空気の粘性によって流速は翼の上下面で同じです。したがって、位置関係から分かるように互いの流れは翼後端部上面で合流します。合流点はよどみ点*2)となりますが流れの平均が全体として下方へ移動した結果、羽根車の内部へ空気は流れ込みます。
図2は平板翼で図示してありますが、上に凸の非対象翼でも図2と同じ効果(作用)になります。
流れの速度が速くなって図2(b)のように粘性の影響が減少して下層流の回り込みが緩やかになると合流点は次第に翼後端部に移動し、最終的には翼から離れて渦となって存在するようになります。この渦の回転方向は下から回り込んでくる多量の下層流の流れによって図2(b)の例では時計方向になります。
しかし、渦の基本法則として『Σ(循環渦)=一定』がありますので時計方向の回転が発生すればどこかに反時計方向の渦が発生しなければなりません。この反時計方向の渦は流れの連続性から図2(b)に示すように翼の外周に循環渦*3)として発生し、翼上層部の流れを加速します。この結果として翼後端の流れはクッタ条件*4)を満たし、循環流や渦は定常的に存在することになります。この様子は各種の流体実験の映像として公開されており、図3にその一例を示します。
なお、渦は騒音の元になりますので翼形状の適切な制御をして低騒音化を図らなければなりません。
この循環流は翼上面の流れを加速する力となり、加速された上層流はベルヌーイの定理によって気圧が下がり、飛行機などの揚力になります。
ここまで説明してきた流れは自由空間中に翼1枚を置いた場合の流れですが、クロスフローファンとしての実際の流れはさまざまな要素が絡んでいます。
まず考えられるのは、羽根車の内部に流れ込んできた流れの干渉です。この結果として羽根車単体を自由空間中で回転させると非常に不安定な流れになり、単体では定常的な流れは存在できなくなります。
(あらゆる方向が対等条件なので微少な変動で状態が移動し特定の方向が存在しない)
この対策として実際のクロスフローファンでは流れを制御し安定化する目的で図1(a)のようにケースで羽根車の周囲を囲い吸い込み口と吐き出し口を設けます。そしてこの様子は定性的には、
『流路抵抗が1番小さく自由空間に近い「吸い込み口」から空気を吸い込むと羽根車内部の気圧が上昇するので、次に流路抵抗が小さい「吐き出し口」から吐き出す』
と説明できます。
したがってケースの形状をうまく工夫して流路抵抗の大小関係を切り替えることができれば羽根車を同一方向に回転させたまま吸い込み、吐き出しを逆転させることが可能になります。
*1)迎え角:翼の角度ー流れの角度
*2)合流点は流れが衝突するので運動量が0になり、流れが停滞するよどみ点になります。
*3)循環渦(流)は上下層流の流速の差となって観測されます。
*4)クッタ条件とは翼後端でのスムースな合流が成立する翼形状や流れの状態
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